3月のまとめ

3月に行った展覧会のまとめ

 

髙島屋史料館 「人間 栖鳳」 生誕160年 知られざる竹内栖鳳
大阪大学中之島芸術センター 服部良一笠置シヅ子:花開く大阪音曲
大阪くらしの今昔館 文様彩集
阪神梅田本店 日本の絵画- 過去・現在・未来 -
阪神梅田本店 優子鈴 大阪初個展「水の都」~水彩で描く美少女原画~
阪神梅田本店 原田ちあき作品集出版記念「私はかわいい、絶対かわいい。」OSAKA
大阪市立自然史博物館 自然史のイラストレーション ~描いて伝える・描いて楽しむ~
四天王寺宝物館 四季折々の四天王寺~絵画にみる近現代の彩り~
尼崎市立歴史博物館 尼崎市指定文化財の精華
尼崎市立歴史博物館 わがまち誇りの指定文化財写真展
尼崎市総合文化センター 開室10周年記念 白髪一雄記念室のあゆみ
狭山池博物館 土木遺産展―石をはこぶ 瀬戸内の石の島から大阪へ―
堺市博物館 芝辻理右衛門家文書と堺の鉄炮鍛冶
ジュンク堂書店大阪本店 浪花百景×未来景  アートでつむぐOSAKA展
阪神梅田本店 阪神タイガース2023日本一記念 成瀬國晴個展“さあ みんなで今季も”
グランフロント大阪 ミュオグラフィアート展2024
京都dddギャラリー 永原康史—時間のなかだち:デザインとNFTの邂逅
千總ギャラリー 舞台は御所解
千總ギャラリー slide/shift
京都文化博物館 コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより
京都文化博物館 雛人形名品展
京都文化博物館 紫式部と『源氏物語
京都蔦屋書店 山口芳水個展「脆 MOROI HOUSUI YAMAGUCHI exhibition」
京都蔦屋書店 grid3-biscuit gallery 3rd Anniversary Exhibition

 

 

市役所に松原市のマンホールカードを貰いに行くのとあわせ、近鉄線で大阪市立自然史博物館の自然史のイラストレーション展を見に行った。市役所入口の横断幕で初めて知ったが、東京五輪金メダリストの西矢椛は松原市の出身らしい。スケボーのまちとして市を挙げてPRをしているようだ。高見ノ里駅から3駅、矢田駅で降りて長居公園を少し歩いて博物館へ。

平日の昼間という時間帯のせいか、展示会場はかなり空いていた。他に展示を周っていたのは3~4組ぐらい。今回の展示は、文献や図鑑などに描かれた生物や自然のイラストレーションにフォーカスした特別展で、書籍に限らず博物館の普及活動の中で作成された資料なども展示する。学術的な正確さを追求しつつ、イラストとしていかに落とし込んでいくのかに興味があるため、会期に余裕はあるものの早めに行っておきたかった。

展示は3部に分かれていて、第1部が日本の本草書や西洋の博物画などカメラが普及する以前の博物図譜、第2部が論文や図鑑に記載された生物の線画やイラスト、第3部が大阪市立自然史博物館の普及教育活動で多くの人が描いたイラストの展示。展示物量は第1部がやや少なめ。写真技術が進歩した現代でイラストが使われ続ける意味は何か?というのが展覧会全体の一つのテーマになっている。特徴をわかりやすく捉えた精緻なイラストをいくつも見ていく中で、写真よりも情報を絞ったイラストの方がわかりやすいことも確かに多そうだなと感じた。複雑な構造を単純化したり、見やすく強調したり。注目すべきポイントから生物種を特定していく絵解き検索は特にそう思う。ただ、イラストレーションの展示を主軸に置いた分だけ写真資料は少なく、イラストと写真を比較できる展示はあまり無かったため、そういう展示があるとイラストの意味がもっとわかりやすかったかもしれない。

興味深かったのは、第2部の最初に取り上げられていた植物標本と論文に記載された線画を比較した展示で、生物種を記載する際にどう情報を取捨選択してイラストとして強調していくかの過程が解説されていたのが面白かった。第3部で科学絵本の絵が専門家の監修でどのように修正されていくかの例が展示されていたのと合わせ、描かれる過程が少しでも見えたのが良かった。博物館で開催された展覧会のポスターとミュージアムグッズの展示を見た後、本展のようなイラスト資料の保管はあまりきちんとなされていないという最後のコメントを読みながら、そうか友の会での観察資料やミュージアムグッズも自然史の資料の一つとも言えるのかとハッとさせられて会場を出た。

 

 

3月に読んだ本のまとめ

 

大田ステファニー歓人『みどりいせき』
小川哲『君が手にするはずだった黄金について』
川野芽生『Blue』
小砂川チト『猿の戴冠式
日比野コレコ『モモ100%』
綿矢りさ『パッキパキ北京』

甲南大学プレミアプロジェクト神戸ガイド編集委員会編『大学的神戸ガイド こだわりの歩き方』
角知行『移民大国アメリカの言語サービス 多言語と〈やさしい英語〉をめぐる運動と政策』
ちいさな美術館の学芸員学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』
日本史史料研究会編『日本史のまめまめしい知識』第2巻
ミリタリー企画編集部 『日本で見られる保存機・展示機ガイドブック』

 

 

話題になって気になっていた小説を何冊か読んだ。わからない薬物の隠語を調べながら、たまにトリップする口語文体を楽しんだ『みどりいせき』が面白かった。不登校気味の主人公が、小学生の頃にバッテリーを組んでいた後輩と高校で再会し、ふとしたきっかけから彼女の闇バイトに関わるようになっていくというあらすじ。都内で薬物を手渡し販売する高校生達のヤバいが温かな日常。手伝いをずるずる続ける中、ボコボコにされる目に遭っても縁を切ることはできず、どうしようもない終わりへ向かって行く。最初の方は文体に慣れずあまり読み進められなかったが、再会して彼女らが何をやっているのかがわかるようになってからは最後まですんなり読めた。再会して関わろうとして悪の道に進むことになるが、出会わずに今の状況が続いていてもおそらく幸せでは無いのが何とも。

2月のまとめ

2月に行った展覧会のまとめ

 

中之島香雪美術館 館蔵 刀剣コレクション 刀と拵の美
民音音楽博物館西日本館
関西国際文化センター 挿絵でたどる『新・人間革命』名場面展――創価教育編
神戸市立博物館 コレクション大航海 蝦夷発→異国経由→兵庫行
felissimo chocolate museum 甘すぎるドレス展 with me
felissimo chocolate museum アリカワコウヘイ!展 マシューくんのチョコレートパーク
神戸海洋博物館 第22回帆船模型教室作品展
カワサキワールド    
大阪歴史博物館 描かれた人たち-尊崇・憧憬・追憶-
大阪府立中央図書館 アート魚拓の世界
あべのハルカス美術館 円空―旅して、彫って、祈って―
あべのハルカス近鉄本店 宮本大地「ガジェット」
あべのハルカス近鉄本店 アートフェスティバル2024 
大阪中之島美術館 Osaka Directory 6 supported by RICHARD MILLE 木原結花
阪神梅田本店 lack大阪個展「CAFE coffee gentleman」

 

 

月の始め頃に三宮の海側のミュージアムをぐるっと周った。一度だけ神戸市立博物館に行ったのを除くと、神戸市内でも兵庫県立美術館より西に行ったことが無く、中心部の三宮まで訪れたことは無かった。今回は神戸三宮駅を起点に海の方へ進み、民音音楽博物館西日本館、神戸市立博物館、フェリシモチョコレートミュージアム、神戸海洋博物館&カワサキワールドと巡り、閉館時間の都合で行ける場所がほとんど無くなったところで駅へ戻り帰路についた。ちょうど春節だったのに中華街に立ち寄らなかったのは少しもったいなかったかもしれない。

神戸行きの主目的は神戸市立博物館の「コレクション大航海 蝦夷発→異国経由→兵庫行」。海をテーマとしたコレクション展で、古地図から蝦夷、美術品から江戸の異国趣味、考古・歴史資料から兵庫津を紹介する3章に分かれた展示。昼過ぎに入館すると、神戸市のマスコットキャラクター、かもめんが来館していた。折角なので写真を撮るとポーズをしてくれた。中央区のキャラらしい。受付で入館券を購入する際、ずらっと並んだ割引の中にマイナンバーカードでの入館割引が目に付いた。マイナンバーカードで博物館の入館料が安くなるのを初めて見た。

3階に上がってまずは蝦夷地に関する展示を見た。地図を使った前近代の展示ではおなじみのオルテリウスの世界図に始まり、国内外の古地図を展示しながら、蝦夷地という地域が国内外でどのように地図に描かれ認識されてきたかを当時の情勢と共に解説した展示。初めて蝦夷地が地図上で記録されてから、樺太蝦夷地が合体した謎の巨大な土地ととして地図に現れ、探検が進んで樺太蝦夷地が分離されてからも蝦夷地を現在の形のように把握される地図になるまで、蝦夷地に対する世界の認識がこうやって変遷していったのかと興味深かった。すぐ近くの日本国内ですら、渡島半島以北の土地や内部の地名が把握されたのは江戸期に入ってからで、幕府が初めて蝦夷地探検隊を派遣したのは18世紀末だったという。樺太東岸の確かな情報を得たかった高橋景保クルーゼンシュテルンの『世界周航記』を望んだことがシーボルト事件の一因という話を読みながら、正確な地図によって地域をきちんと把握していくことがいかに重要だったかを強く感じた。

2階に降りて江戸時代の異国趣味の展示室へ。当館は池長孟が寄贈した南蛮美術コレクションがあり、教科書でもおなじみの《聖フランシスコ・ザビエル像》を常設展示で専用展示室内で鑑賞できる(本展の後、常設展示ゾーンで複製品を鑑賞した)。2つ目の展示室では、黄檗僧によってもたらされた作品や清の画家を学んだ日本人による絵画、南蛮文化から生まれた工芸品、西洋の画法を受けて新たな方向を開こうとした日本の絵画、ヨーロッパの陶磁の影響を受けた陶磁器、西欧への輸出用に作られた漆工芸品と、江戸時代の美術品と聞いて通常想像する物とは異なる作品に溢れていた。能の楽器の意匠に大胆に鉄砲をあしらった《蒔絵鉄砲文大鼓胴》が印象に残る。異国から伝わった兵器たる鉄砲が日本の能で音を響かせる鼓にデザインされる、その意外さと予想以上のマッチ具合が衝撃的だった。

奥に進んで最後の展示室の兵庫津の展示を見る。一応ざっと目を通したものの、兵庫津についての基本情報や土地勘の無い状態で地図や文書を読んでもあまりピンと来なかった。1階の神戸の歴史展示室を先に見ておけばよかったかもしれない。港としての繁栄は各資料から窺えたが、それを神戸という地域と結びつけて歴史を感じられるほどには至らず。そして、この日は新規開拓するミュージアムを巡ることを優先して1階の歴史展示室をじっくり見る時間は無かった。尻すぼみな感想になったが、この後に周った常設展示室も併せて楽しい博物館体験だった。次回の幕末・明治手彩色写真も面白そうなので、また春にでも訪れたい。

 

 

2月に読んだ本のまとめ

 

竹町『スパイ教室』11巻
永井みみ『ジョニ黒』
八目迷『ミモザの告白』4巻
葉山博子『時の睡蓮を摘みに』
原田マハ『黒い絵』

大阪歴史博物館監修『近代大阪職人図鑑 ものづくりのものがたり』
国立科学博物館編著『〈標本〉の発見 科博コレクションから』
住吉雅美『ルールはそもそもなんのためにあるのか』
樽本英樹『国際社会学・超入門 移民問題から考える社会学
東京造形大学附属美術館監修、藤井匡編『美術館を語る』
日本史史料研究会編『日本史のまめまめしい知識 第1巻』
穂村弘『よくわからないけど、あきらかにすごい人』
ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか バーンアウト文化を終わらせるためにできること』

 

 

𝕏で流れてきた舞台設定などに興味を持って『時の睡蓮を摘みに』を読んだ。日中戦争の開戦直前期にハノイへ渡って大学で学び始めた日本の女学生を軸として、戦争の中で変わりゆくハノイと人間模様を描いた長編小説。フランスの植民地として搾取されている現実がある一方、パリとはまた違った風景の中で華やかに生きる人々。海外展開する日本企業の社員、進駐してくる日本軍、植民地で裕福な暮らしをするフランス人、現地や近隣国の人々。先月読んだ川越宗一の『福音列車』もだが、戦前の植民地時代における国際色の豊かさとその中での階層差を実感する。日仏中の思惑が入り乱れる中で各人の運命は如何に……と展開が気になりつつ、ベトナムという地域の空気を感じながらどんどん読み進められる物語だった。読んだ後、フランス語文献も含めて参考文献が数ページに渡って載っているのに圧倒される。アガサ・クリスティー賞大賞受賞作だが、そこまでミステリ要素を強く感じることは無かった。

1月のまとめ

1月に行った展覧会のまとめ

 

ジーストア大阪    イースX展
髙島屋史料館 全身画家 高波壮太郎-見るもの、見えるもの、見えないものを描く-
奈良県立美術館 漂泊の画家 不染鉄
京都国際マンガミュージアム アフリカマンガ展-Comics in Francophone Africa-
京都国際マンガミュージアム こどものぜいたく、別冊付録だーい!
京都蔦屋書店 鬼頭健吾「Triangulum」
京都蔦屋書店 大和美緒個展「今日⽣きることを 選びつづける私たちへ」
狭山池博物館 1970大阪万博狭山ニュータウンの時代
大阪大学総合学術博物館 ちんどん屋―宣伝・広告に活きるハブ(集積/中継/交流)芸能―
池田市立歴史民俗資料館    ちょっと昔のくらしの道具
逸翁美術館 The コレクター逸翁~その収集に理由アリ~
落語みゅーじあむ    
堺市立みはら歴史博物館

 

 

気になっていた阪大博物館のチンドン屋展のついでに、池田駅を起点に市内のミュージアムをぐるっと巡った。昨年の文化の日にIKEDA文化DAYという池田駅近辺の文化施設を周るウォークラリーの案内を見て以来、一日で色々な施設を体験できそうだと機会をうかがっていたところ、石橋阪大前駅の隣が池田駅と行きやすかったのでセットで周ることにした。IKEDA文化DAYは逸翁美術館小林一三記念館が無料となる日のため、文化の日が近づく頃にまた思い出したい。

まずは阪大博物館のチンドン屋展。全体は4ブロックに分かれており、最初のブロックはチンドン屋の楽器が初っ端に展示され、チンドン屋はどのような活動をしているかとその歴史と系譜の解説パネルが置かれていた。チンドン屋自体を知らずにこの展示を見ようと思う人は少なそうだが、ここで映像を流したりイラストや写真を多く展示したりしてチンドン屋がどういう物かをもっと具体的に説明した方が良い気がする。次のブロックでは、明治~昭和期に商品の宣伝のため企業が楽隊を編成して街中で行った宣伝活動について、社史の紙面や写真からいくつもの例を挙げて説明していた。近代の広告史や企業PR史として興味深く見た。3つ目のブロックではチンドン屋の派手な衣装や道具をメインに展示していたほか、待望のチンドン屋の映像展示がようやくあった。子どもをおぶった男性の、子どもと男性のどちらが人形かがわからないように動く「人形ぶり」という芸に驚嘆した。背中におぶさった子どもの方が人間だと思うが、男性の手や足の滑らかな動きにどちらが人形かをしばらく考えてしまった。最後のブロックはチンドン屋博覧会など現代でも行われている大会の資料とその映像の展示。現代でもチンドン屋として活動している方はいるらしい。展示を見終わって出ようとしたところで、最初のブロックの壁に、本展のためにチンドン屋の方が書いた布に記されたメッセージがあることに気づく。このメッセージにせよ途中の道具にせよ、カチッとした企業資料の展示パート以外からは手作り感のような物を感じた。手作り感の親しみやすさもチンドン屋らしさなのかもしれない。

池田駅は改札を出てすぐにインフォメーションコーナーがある。マンホールカードと池田駅近辺の地図を貰って北口から歩き始めた。まずは地図に無くて少し離れた場所にある歴史民俗資料館へ。駅から坂を上っていき、逸翁美術館と池田文庫の案内を右折してしばらく歩き、ようやく着いたと思ったら階段があって息を切らしつつ到着。企画展は昔の道具展で、昭和期の家具などが展示されていた。この時期は他の館も昔の道具展をよくやっている印象がある。一部屋だけの企画展と常設展の池田市の歴史をざっと見て資料館を出た。事前に観光スポットを探して知った呉服神社の話とかを読みたかったが見当たらなかった。

来た道を引き返して逸翁美術館へ。実業家の小林一三のコレクションを展示している美術館で、以前に一回だけ来たことがある。今回の企画展は小林一三のコレクターとしての側面を前面に出した展覧会として注目していた。コレクションの始まりと言える美術品から、古物商から購入したり、色々な人から贈られたり、縁あって手許に転がり込んできたりと様々な縁で集まった古美術品が、その蒐集エピソードと共に展示されていて、コレクターのコレクション形成過程を楽しめる展示だった。小林一三の人脈はやはり強い。それぞれ優品とは思うが、どうしてもキャプションのエピソードを読むことに集中して作品自体を堪能しきれなかった。宝塚歌劇団の周年記念茶会で、かつて作曲した曲の楽譜をあしらった茶器を意気揚々と持ち込むも、誰にも理解されずに寂しい想いをしたエピソードには笑ってしまった。

昔訪れた小林一三記念館は見送り、上方落語の資料を展示する落語みゅーじあむへ。落語を演っている映像が施設に入るなり目に留まり、チンドン屋展も入口にこういうのがあると良かったのではと改めて感じた。池田にまつわる落語の解説パネルと落語を流す複数のモニター、奥の高座以外はあまり解説展示は無かった。2階で落語のDVDなどを視聴できたが、館内をざっと周って早々に建物を出た。すぐ近くにある大衆劇場の池田呉服座の入口付近のにぎわいを見ながら、池田駅へ戻る道を歩き出した。

池田市内にはカップヌードルミュージアムダイハツのヒューモビリティワールドという2つの企業博物館があるがどちらも休館中だったので残念ながら行けず。逸翁美術館はまた行く日が来そうなので、その時に併せて周れるといい。

 

 

1月に読んだ本のまとめ

 

川越宗一『福音列車』
河﨑秋子『ともぐい』
二月公『声優ラジオのウラオモテ』9巻
李琴峰『肉を脱ぐ』

井奥陽子『近代美学入門』
熊本大学文学部編『大学的熊本ガイド こだわりの歩き方』
東京国立博物館編『ミュージアムヒストリー 東京国立博物館―150年のあゆみ―』
平体由美 『病が分断するアメリカ 公衆衛生と「自由」のジレンマ』
宮﨑浩一、西岡真由美『男性の性暴力被害』
安田峰俊『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』

 

 

好きな作家としていくつか作品を読んでいた河﨑秋子が直木賞を受賞した。芥川賞直木賞も受賞が決まってから作者や作品を知っていくことが多い中で、比較的作品を読んでいる作家が直木賞を獲る場面を目にするのはあまり無く、受賞者を聞いて嬉しいと感じたのもおそらく初めてだった。北海道の近代史や動物の生死といった題材もだが、ある種ドライに淡々と描かれていく人間模様が好きなんだと思う。『ともぐい』も猟師の動物との対決だけを描いて終わらず、動物的な生を送る猟師が猟師でいられなくなってからの生活が描かれているのが印象的だった。『肉弾』や『絞め殺しの樹』など読んでいない作品にも手を出していこう。

月の後半に読んだ『肉を脱ぐ』は舞台設定が面白かった。人として生まれて体を持ってしまった以上、人間の生活は食べたり排泄したりと肉体のケアを続けなければならない。体に縛られるこのような生を厭わしく感じる女性が、作品名と名前があるだけで肉体を伴わない小説家として成功したいと切望するも、ペンネームと同名のVTuberがバズったことで観測できるネット世界での居場所を失っていくというあらすじ。現実の体の制約とは別の場所で活動するVTuberという存在と、主人公が煩わしく感じる体をむしろ望んでいる性別違和の女性。体にまつわる生への煩わしさを描く中で、VTuberLGBTを持ってきたのが興味深かった。配信画面の僅かな映り込みから自社イベントのノベルティと確信し、欲しいものリストで送った物の配達先から住んでいる地域を特定し、社内データベースからVTuberの中の人を特定して住所まで実際に行く主人公の行動力と特定力は恐ろしい。

12月のまとめ

12月に行った展覧会のまとめ

 

大丸心斎橋店 Osaka Metroと大丸のむかし展
大阪科学技術館 まもなく開催!2025年大阪・関西万博~2025年大阪・関西万博で出会う技術と1970年大阪万博
大阪府立上方演芸資料館ワッハ上方 『What is 上方演芸?』~上方演芸って何だろう?~
大阪中之島美術館 Osaka Directory 5 supported by RICHARD MILLE 肥後亮祐
大阪大学中之島芸術センター ヤスキチ・ムラカミの世界展 ~オーストラリアに生きた写真家・実業家・発明家~
大阪府中之島図書館 博覧会の展覧会Part4 さらなる人類の進歩と調和~いのち輝く未来社会~
阪急うめだ本店 大宮エリー展 A Wonderful Garden 8つのお庭がある展覧会
阪急うめだ本店 NEW YORKアート PART2「五人のコンテンポラリーアーティスト達」

 

 

存在を知りつつもそれぞれの理由から二の足を踏んでいた3つの施設に重い腰を上げて初めて行ってきた。1つ目は靭公園の隣にある大阪科学技術館。よく行く中之島とは肥後橋駅を起点に反対側にあって中之島から梅田へ向かうルートを取ると周りづらく、施設案内を見るだけでも展示量がそこそこあって時間が掛かりそうなので敬遠していた。実際に行ってみると、子ども向けのゲームや体験展示が多く、解説の文字情報自体は必ずしも多くは無く、全力で遊びまわる気も無かったので存外時間は掛からなかった。この施設は企業や研究機関がブースを設け、各ブースで業務と絡めた技術や科学について解説していくミュージアムであり、ゲームで遊ばなくてもそういう技術に興味があれば大人でも楽しめると思う。子連れの来館者が多い中、大人独りで来ていた人が他にいなかったのは残念だ。ワイヤレス充電についての解説とリズムゲームっぽいゲームを出展していたダイヘンと、関西暮らしだと意識する関西電気保安協会が記憶に残る。

2つ目はなんばグランド花月の向かいの建物に入るワッハ上方。テレビをあまり観ないし漫才に興味も無いため、難波には比較的よく行く割に足を向けることは無かったが、無料だし一回ぐらいは行ってみようと思い立って行くことにした。懐かしポスターにも上方演芸の歴史にもあまり惹かれずざっと見るだけで終わったが、常設展示のメインが大阪弁の解説だったのでそこは興味深く読んだ。使う表現、周りにいる人によっては使う表現、わかるが使わない表現、わかるがそういえば身の回りで見ない表現など、それぞれの言い回しについて自分の感覚を照らし合わせて考えていくのは面白かった。企画展は「上方演芸とは何か」をジャンルごとに解説していく展示で、門外漢に優しい内容だったのもちょうど良かったかもしれない。

3つ目は国立国会図書館関西館。ずっと行こう行こうと思いつつ、如何せん立地が微妙でどこかに行った後に足を延ばしづらくて行けていなかった。何かを調べる際に国立国会図書館のデジタルコレクションは有用で、個人送信が昨年始まって家からの調べ物がより便利になったため、去年の夏に個人登録をしようとした。しかし、昔作ったIDがまだ有効で仮登録までしかできず、その旧IDもパスワードがわからずメールアドレスを設定していなくて再設定も面倒そうだったため(当時は登録時にアドレスが不要だったらしい)、関西館まで行ってIDをどうにか有効にすることは去年からの懸案事項だった。中央線の行き先として目にする近鉄学研奈良登美ヶ丘駅まで乗り、そこから歩いて関西館へ。特に店なども見当たらない北側の出口から歩き出し、緑が目に映る道路沿いを歩いていくと気づけば住宅街に入っていて、さらに進んでいくとデカい建物と車線の増えた道路にぶつかった。右折して何かしらの研究所を横目に少し歩いて目的地に到着。途中から飲食店がこれでもかと立ち並んでいたのが印象的だった。肝心のID問題は、昔のIDの有効期限が切れており、去年の仮登録を本登録にするだけで済んであっさりと解決。折角来たので、データベースでいくつか調べ物をするも成果は大して無く、今後も利用するだろうから開架資料の棚をざっと眺めて周った。事典や辞書などの参考図書だけでなく、教科書系の概説書やガイドブック類が開架なのが便利で、調べ物を持ち込まなくてもずっと本を読み続けて時間を過ごせそうだった。飲食店事情も永田町にある東京の本館よりは明らかに便利なため通って籠りたい……が、アクセスしづらいのはどうしようもない。閉架資料も使わずに館内をざっと周っただけで退館したので、また来たるべき時に有効活用したい。

 

 

12月に読んだ本のまとめ

 

彩月レイ『勇者症候群』1~2巻
千葉雅也『エレクトリック』
津島佑子半減期を祝って』

浅川満彦『野生動物医学への挑戦 寄生虫感染症・ワンヘルス』
宇野重規『近代日本の「知」を考える。 西と東との往来』
岡本亮輔『創造論者vs.無神論者 宗教と科学の百年戦争
鈴木透『スポ-ツ国家アメリカ』
竹端寛『ケアしケアされ、生きていく』
奈倉有里、逢坂冬馬『文学キョーダイ!!』
ベル・フックス『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学
山田七絵編『世界珍食紀行』
ティムラズ・レジャバ、ダヴィド・ゴギナシュヴィリ『大使が語るジョージア 観光・歴史・文化・グルメ』

 

 

法獣医学マンガの『ラストカルテ』を読んで野生動物の医療に興味が湧き、関連する書籍が無いかと図書館を巡っていたら『野生動物医学への挑戦』を見つけたので借りて読んだ。あとがきを読むまで気づかなかったが、表紙絵は『ラストカルテ』の作者が手掛けている。寄生虫への興味から獣医学の道に進み、寄生虫感染症研究を専門としつつ野生動物医学へと手を広げていくこととなった著者自身の体験を基に、寄生虫や野生動物の感染症、野生動物医学について解説した一冊。目黒寄生虫館に何度か行った程度しか寄生虫に興味は無く、延々と症例の解説が続く所はあまり関心を持てずにさっと流してしまったが、著者の体験談や脇道にそれた雑談が方々で挟まれ、門外漢にも優しい硬すぎない筆致で最後まで読み切れた。後に『野生動物の法獣医学』という『ラストカルテ』の内容により直接関わる書籍を知る。こちらも読もうかな。

読みやすさという点では、今月末に読み終えた『創造論者vs.無神論者』も刺激的で一気に読めた面白本だった。欧米での宗教の信仰と科学思想との戦いの模様を描いた一冊。章タイトルや小見出しを含め幾分センセーショナルな書きぶりをしているだけではなく、来歴などを示すことで抽象的な議論の戦いよりも個々の人間のドラマとして読んでいけて読みやすかった。マラドーナ教会やスパモン教など現代のパロディ宗教、スコープス裁判にインテリジェント・デザイン論、議論の前提を変えた新無神論者、科学と宗教の中道を行く思想。聖書世界観の疑似科学として対岸の火事と笑えるだけの話ではなく、宗教的な信仰と科学者としての世界認識にどう折り合いをつけていくかという論点として興味深かった。

11月のまとめ

11月に行った展覧会のまとめ

 

和歌山大学紀州経済史文化史研究所 移民と和歌山2023:記憶と遺物の継承~過去から現在、そして未来へ~
和歌山県立近代美術館 トランスボーダー 和歌山とアメリカをめぐる移民と美術
和歌山県立近代美術館 原勝四郎展  南海の光を描く
和歌山県立近代美術館 原勝四郎と同時代の画家たち
大阪市公文書館    博覧会と大阪-公文書から見る大阪の近代化-
大阪市公文書館    建築物の図面から見る大正・昭和の大阪
阪神梅田本店 日月沙絵イラストレーション個展 『しろいいきもの』
阪神梅田本店 がわこ画集「emergence」出版記念イラスト展
大阪府立中央図書館 子どもの本のはじまり-三宅興子 英語圏児童文学コレクションから-
ミズノスポートロジーギャラリー    
さんふらわあミュージアム    
狭山池博物館 令和5年度選奨土木遺産パネル展
狭山池博物館 新大和川と石川の治水絵図-若狭野浅野家の流域図を見る-
堺市博物館 コロナ禍を乗り越えたアジア太平洋地域の無形文化遺産
堺市博物館 都市の祈り 住吉祭と堺
河内長野市立ふるさと歴史学習館    天野山金剛寺の中世世界展

 

 

月の頭に和歌山県に行った。目的はアメリカへの移民をテーマにした2つの展覧会。今月は近代美術館の無料開館日が多く、その日を狙って美術館の展覧会に行くつもりだったが、和歌山大学の展示は平日しか開いておらず、ちょうど平日に動けるタイミングが来たので両方セットで見に行くことにした。南海電鉄の1日乗り放題きっぷが11月末まで販売中なのも都合がよい。新今宮で2000円の乗り放題きっぷを購入し、特急サザンに乗って朝から大阪府を一気に南下して和歌山へ。予想以上の速度でスイスイ進むのは良かったが、時間と停車駅の都合から気になっていた岬の歴史館をスルーせざるを得なかった。大阪最南端の自治体である岬町の歴史博物館で、最寄り駅が南海電鉄のため、乗り放題機会に立ち寄りたかったが仕方ない。存在を把握しているミュージアムはとりあえず一度は行ってみたいと思っている。

1時間ほどして和歌山大学前駅に到着。駅を出ると、道路を挟んで大きなイオンモールが階段の向こうにあった。イオンモールで昼食を食べて大学の方へ歩き出す。駅前で目にした施設はイオンモールとサーカスと交番のみ。住宅街の間を20分ほど歩いて和歌山大学に着いたが、道中で記憶しているのはコンビニと結婚式場ぐらいだった。大学生はイオンモールで鉢合わせるのが当たり前なのだろうか。登り坂の先にある階段を上がってようやくキャンパス内に入る。大きく経済学部と書かれた垂れ幕のある建物と、ベンチにマスコットキャラと思しきオブジェが居るのが印象的だった。目的地の建物の1階にある図書館の受付で入館手続きをし、エレベーターで5階に上がって展示室へ。入口に過去の展示図録が1部限定で持ち帰ってよいと並べられていたので一通り貰い、展示を観始める。本題の展示は和歌山県からアメリカへと移民した人々の資料の展示。移民した家の子孫が保存していた資料が展示されていて、それぞれの家の概要を説明するパネルがある以外は、個々の資料の詳細な説明はほとんど無い。最初に展示されたトランクにかつての長い旅を思いながら、写真や絵葉書、旅券、契約書、証明書といった資料からアメリカへ渡った人たちが確かにいた歴史を実感した。エピソードとしてだけ知っていた写真花嫁の手紙が展示されていて、実際に資料として目の前にあるのは衝撃的だった。各家庭でこのような資料が残され、今に伝わっていることそれ自体に大きな意味があるのだろう。

徒歩で駅まで戻り、今度はすぐに和歌山市駅へ到着。歩いて和歌山県立近代美術館へ。もう一つの目的だった中銀カプセルタワービルのカプセルを鑑賞。東京ではついぞ見に行くことは無く、解体されたカプセルの1つだけをここで見ているのも順番がおかしい気はするが、あのカプセルの中身を窓から覗きこむことである程度知ることができたのは良かった。思っていたよりも必要な物は揃っているように見える。内部公開される日が来たらまた見に来たい。

受付でチケットを購入して今回の主目的であるトランスボーダー展へ。アメリカ西海岸で活動した日本人が残した美術作品をメインとした展示。序盤は和歌山の移民県としての側面を反映した展示で、和歌山大学で見た展示と被っている所もあり、2つの展示を併せて見ることで理解が深まって良かった。中盤からは個々の作家の展示になったが、イメージよりも「日本」を感じさせる作品の少なさに驚くとともに、そういう物が多いだろうという先入観自体に自分のバイアスを感じさせられた。日本人への差別が強まっていく戦前期でも、差別の中に生きていることを窺わせる作品は多くなかった。アメリカという異郷での活動と生き方を想いつつ歩みを進めていたが、最後の部屋で目にしたのは日系人収容所での作品という「日本」を強く感じざるを得ない展示だった。アメリカに味方をするかと問いかけられた当時の雑誌の記事。収容所生活を描いた絵画。僅かな素材から作られた置物やブローチ。このセクションだけで展覧会全体を判断するのもどうかと思いつつ、ここで受けた衝撃はそれまでの作品よりも大きかった。個々の作家の掘り下げやアメリカでの人の交流についての研究がもっと進んでいくと、これまでの章の印象も変わってくるかもしれない。今の段階では、アメリカで活動した作家が居たという記録としての側面が強いと思う。折角来たので同時にやっていた原勝四郎展と、 原勝四郎と同時代の画家展も鑑賞。3つの展覧会を全部見ても1000円なのはお得だと思う(ぐるっとパスで200円引きの800円だった)。

和歌山県立近代美術館に来たのは「美術館を展示する」というミュージアム自体についての展示以来の3年ぶりだった。初めて来た当時、コレクション展とこの展覧会を見てこの美術館を応援したいと感じたのを思い出した。再訪までこれだけ時間が空いてしまったのは残念だったが、これからもまた時機を見て訪れたい。

 

 

11月に読んだ本まとめ

 

朝依しると『VTuberのエンディング、買い取ります。』2巻 
小川洋子『からだの美』
アベル・カンタン『エタンプの預言者
四季大雅『バスタブで暮らす』
高瀬隼子『いい子のあくび』
津村記久子『うどん陣営の受難』

池上俊一『少女は、なぜフランスを救えたのか ジャンヌ・ダルクのオルレアン解放』
稲岡大志、長門裕介、 森功次、朱喜哲編著『世界最先端の研究が教える すごい哲学』
神戸大学人文学研究科編『人文学を解き放つ』
清水浩史『海のプール 海辺にある「天然プール」を巡る旅』
東京大学広報室編『素朴な疑問VS東大 「なぜ?」から始まる学術入門』
仲谷正史、山田真司、近藤洋史『脳がゾクゾクする不思議 ASMRを科学する』
山本冴里編『複数の言語で生きて死ぬ』

 

 

途中まで読んで放置していた『エタンプの預言者』をようやく読み終えた。65歳の元大学教師ロスコフが、ダメダメだった人生の逆転としてウィローという詩人の書籍を刊行するも、彼の黒人という要素を前面に出さなかったために文化盗用として大炎上してしまうというあらすじ。反人種差別運動に参加した過去を持つリベラルな白人インテリという自認の一方で、時代に取り残され、現代的な人種意識に適合していなかったことが悲惨な状況を招く。住所を晒され、アパルトマンは落書きされて錠は壊され、有料サイトに勝手に登録されては口座のリボ払いが始まり、挙句の果てに娘が襲撃される。アルコール中毒で怠惰で、要所要所で悪手を打ち、過去に大きな失敗をしたのに今回も大失敗をしてしまう。老いてしまった先の姿として、充分にあり得る最悪の未来として我が身のことと考えてしまうと恐ろしくなった。

10月のまとめ

10月に行った展覧会のまとめ

 

和泉市久保惣記念美術館 宗達-物語の風景 源氏・伊勢・西行
大阪大谷大学博物館 おくすり大百科 目指せ!おくすり博士 歴史編
大同生命大阪本社 大同生命の源流“加島屋と広岡浅子
大阪中之島美術館 みんなのまち 大阪の肖像2.5「大阪の戦後建築と中之島
大阪中之島美術館 テート美術館展 光― ターナー印象派から現代へ
大阪大学中之島芸術センター 豊中市所蔵 京・大坂 日本絵画の精華~花鳥画の名品から俳画の珍品まで~
阪急うめだ本店    長坂真護展

 

 

あまり出かけない月だった。有効期限内のぐるっとパス関西を使うため、和泉市久保惣美術館に行ったのが数少ない外出だった。俵屋宗達を中心とした展覧会で、源氏物語伊勢物語などの色紙・絵巻物をメインに屏風絵などが展示されていた。物語絵にはあまり詳しくなく、どれも同じような描かれ方のイメージを持っていたが、源氏物語のこの帖からこのシーンをこうやって切り取るのか、構図や見せ方にも工夫があるのだなあと感じていた。行ったタイミングが国宝の展示期間で、、名前だけ知っていた国宝の《蓮池水禽図》も目にすることができた。水墨画技術の妙がわからず、国宝という前情報と俵屋宗達という作者名が無ければ見過ごしてしまいそうだった。まだまだ学び知っていくことは多い。

美術館に着いた時にちょうどだんじりが前に停まっているのを目撃した。だんじり囃子を聞きながら展示を鑑賞し始め、観終わる頃にはだんじりも周辺から離れているだろうと考えながら展示を一周した。ほどほどの時間になったので美術館から出てバス停へ向かったが、駅へと向かう帰りのバスが全然来ない。到着予定時刻から30分以上待ったところで、諦めて駅までの道を歩き出した。雨が降る中で40分も歩きたくなくてバスを使おうとしたが、無駄に時間を浪費するならさっさと歩けばよかった。それでも、道中でバスに追い越されることは無かったので、さらに待ち続けるよりはマシだったと思う。だんじりシーズンにバス移動が前提の地域に来るべきではないことを心に刻み込んだ。和泉中央駅からJRの和泉府中駅までバスで移動したかったが今日はダメだと諦め、大阪市の中央図書館を目指して南海で汐見橋駅へ。少し歩けば難波に出られる立地の駅なのに、構内に自動精算機が無いことにビックリした。

別の日には大阪の建物公開イベント「イケフェス大阪」に合わせ、中之島近辺の展示を見に行った。去年のイケフェスでは企業ミュージアムを優先し、道修町ミュージアムストリート近辺と大阪証券取引所大林組歴史館、モリサワ本社と巡った。今年は大阪中之島美術館の展覧会とセットで肥後橋周辺を巡ることにし、大同生命大阪本社、日本基督教団大阪教会、江戸堀コダマビルと周って淀屋橋方面へ歩き、三井住友銀行大阪本店を見て大阪市中央公会堂の壮麗な集会室を堪能して終わり。昼から出て行って他の展覧会を周りながらだと、イケフェスを充分楽しむにはどうしても時間が足りない。来年以降は建物だけを見る目的でルートを組んでみてもいいかもしれない。

 

 

10月に読んだ本まとめ

 

石田夏穂『ケチる貴方』
石田夏穂『我が手の太陽』
一色さゆり『カンヴァスの恋人たち』
白鳥士郎りゅうおうのおしごと!』18巻
竹町『スパイ教室』10巻
八目迷『ミモザの告白』1~3巻
宮澤伊織『裏世界ピクニック』8巻 
李琴峰『観音様の環』

岡野原大輔『大規模言語モデルは新たな知能か ChatGPTが変えた世界』
小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』
小原真史『帝国の祭典 博覧会と〈人間の展示〉』
奈倉有里『ことばの白地図を歩く 翻訳と魔法のあいだ』
松沢裕作『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』
村上由鶴『アートとフェミニズムは誰のもの?』
室橋裕和『北関東の異界 エスニック国道354号線 絶品メシとリアル日本』

 

 

家に籠っていた分だけ、いつもよりは少しだけ本を読む量が多くなった。厚めで硬めの本はあまり読まなかったが。月初めに読んだ『北関東の異界 エスニック国道354線』は、副題から想起するエスニック料理方面の話題を期待して読んだら、グルメの話題以上に北関東のエスニックコミュニティの多様さとその生活に驚かされる一冊だった。エスニック料理店に行くこともほとんど無くなってしまったが、またそういう物を食べる時間も取りたい。

ボディビル小説の『我が友、スミス』が面白かったので、作者で本を手に取って行ったら石田夏穂の単行本での既刊4冊を全部読んでしまっていた。最初に読んだ『我が友、スミス』の印象がどうしても強いが、仕事への誇りとこだわりの強さ故に、スランプに陥った際に仕事への向き合い方の歪さが浮き彫りになっていく『我が手の太陽』も読んだ作品の中では面白かった。設定としては脂肪吸引にドはまりする『その周囲、五十八センチ』もインパクト大。

9月のまとめ

9月に行った展覧会まとめ

 

造幣博物館 おはなしに登場するお金―昔話から推理小説まで―
阪急うめだ本店 アール・ヌーヴォー魅惑の煌めき ガレ・ドーム ガラスの世界展
阪急うめだ本店 フランスのファッションとアンティークジュエリー~18世紀ロココから1950年代まで~
阪神梅田本店 イセ川ヤスタカ個展「BUSTAR BULLET」
大阪府江之子島文化芸術創造センター 大阪府20世紀美術コレクション展「くりかえしとつみかさね」
堺市博物館 無形文化遺産シリーズ展「アジアの伝統的織物―中国・韓国・日本を中心に―」
堺市博物館 河口慧海 仏教探究の旅
阪急うめだ本店 “JAPAN IS BEAUTIFUL” Artworks by MR BRAINWASH
阪急うめだ本店 長島伊織個展 Reverie
パナソニックミュージアム 松下幸之助『私の行き方 考え方』ゆかりの地をたどる―和佐村から門真まで―
パナソニックミュージアム 夢の実現、テレビジョンが拓いた未来
守口市立図書館郷土資料展示室    
阪神梅田本店 クリパレ2023
阪神梅田本店 阪神梅田本店 過去最大のアートフェア!第3回 OSAKA ART FES HANSHIN
なんばマルイ 今市子原画展 -百鬼夜行抄より 紡がれるふたつの世界-
阪急うめだ本店 ー日本のふるさとを描くー【特別展】川合玉堂 生誕150周年記念
中之島香雪美術館 茶の湯の茶碗 ― その歴史と魅力 ― 
キヤノンギャラリー大阪 西田航写真展「COLOR OF KANSAI」
大阪大学中之島芸術センター 中村恭子日本画作品展「風景の肉体」
大阪市立科学館 プラネタリウムの歴史と大阪
エスパスルイ・ヴィトン大阪 シモン・アンタイ「Folding」

 

 

ずっと行こうとしては行きそびれていたパナソニックミュージアムに行ってきた。大阪近辺の展覧会巡りは大阪メトロの一日乗車券を使うか否かで一日の行き先を決めているが、大阪市内をうろうろしやすいメトロを使いがちで、京阪の駅が最寄りの同館はずっと行けていなかった。Googleマップを眺めていたら谷町線守口駅から歩けば15分ほどで着けることが判明したので、実質メトロ圏内で行きやすいじゃないかと行ってみることにした。

守口駅で降りて大通りを歩き始めてすぐ、ふと横を見ると何やら解説を記した案内板が目に入ったので曲がってみると文禄堤の説明板があった。かつて京街道がここを通っていたらしい。初めて降り立った守口市を数分で通過して目的地に到着。隣に大きな公園はあるし、Panasonicの文字が遠目にも見えるので初めての場所ながら迷わず着けた。

パナソニックミュージアム松下幸之助歴史館とものづくりイズム館の2つの施設から成る。ルートの都合上、ものづくりイズム館の前を先に通りかかったが、正門まで歩いてまずは松下幸之助歴史館へ。敷地にある松下幸之助像の写真を撮っていたら、警備員の方に声を掛けられ、入口脇の案内碑に刻まれた文字が何と書いてあるか読めます?というクイズを出された。答えは「歴史館」という施設そのものの漢字3文字だったが、「歴」の文字だけわからず。「展」みたいな文字なのか。

松下幸之助館は松下幸之助の生涯とそれに関連するパナソニックの歴史、そして彼の思想というか経営哲学をパネルで解説した施設で、パネルとセットで説明に関連した発明品や資料を展示している。入った瞬間に松の木が目に入り、その下に訃報記事や彼の言葉の展示があった。Time誌の訃報記事の「The Man "Undernearth the Pines"」という見出しにしばし考え、ああ「松下」かと納得する。「松下」から展示が始まり、丁稚奉公時代、事業を立ち上げて色々産み出した時代、戦時期、戦後の苦境、海外へと目を向けていく時代、不況の苦しい時期、社会貢献運動を展開していく時代と、濃厚な人生がわかりやすいパネルでまとめられていた。パネルごとに松下幸之助の言葉を記したカードがあって、そこそこの枚数のそれらを収めるケースが販売中だという。松下幸之助が偉人として今なおリスペクトを集める理由が少しわかったような気がしたが、時代の中で勝ち残ることができた成功者という側面も大きいような感じがした。完全週休二日制を日本で初めて導入したのは松下電器だと知る。

その後はものづくりイズム館へ。長いパナソニックの歴史の中で特筆すべき家電製品が展示されているほか、企画展を開催していて、行った時にはテレビの歴史の展示がやっていた。パナソニックに強いこだわりも無ければ、個別の家電製品に強い思い入れも無いが、技術の進歩とか新しいテクノロジーの結晶を見るのは好きで、現在当たり前となっている身の回りの物が産まれるまでにあった年月の積み重ねを感じられて面白かった。個々の製品だけでなく、その製品が発表された時の広告も物によっては展示されていて、広告に時代や売り出した方の工夫が見えたのも面白かった。企画展のテレビの歴史は番組史とかでは無くてハードや技術としての歴史で、高柳健次郎の「イ」から始まって昭和・平成の時代ごとの機能やデザインの変遷を見せ、最後にはテレビが今や様々なビジネスに拡大したことを1枚のパネルで表して終わる。「イ」を画面に表示させてみようという体験展示が、何度かチャレンジするもうまくいかなかったのは少し残念だった。

展示を見た後は30分ほど歩いて大日駅を経由して守口市立図書館へ。郷土資料展示室があるのでそれが目当てだったが、2020年にオープンしたという内部の新しさと電子パネルなどの設備にびっくりしていた。2020年までは大阪府下ながら図書館の無い自治体だったらしい。想像できない暮らしだ。大日駅は谷町線の終点なので、メトロに乗って大阪市内へ戻る。メトロ圏内とはいえ気軽に行きやすい立地では無いが、パナソニックミュージアムの展示もこれからは注目していこう。

 

 

9月に読んだ本まとめ

 

朝依しると『VTuberのエンディング、買い取ります。』
王谷晶『君の六月は凍る』
河﨑秋子『鯨の岬』
黒鍵繭『Vのガワの裏ガワ』1~2巻
高山羽根子ドライブイン・真夜中』
村雲菜月『もぬけの考察』

犬塚元、河野有理、森川輝一『政治学入門 歴史と思想から学ぶ』
オラシオ『図書館ウォーカー 旅のついでに図書館へ』
野口武悟『読書バリアフリーの世界 大活字本と電子書籍の普及と活用』
水嶋英治編『展示の美学』
宮野裕『「ロシア」は、いかにして生まれたか タタールのくびき』
村上靖彦『客観性の落とし穴』

 

 

いつもより小説が多めだが、長編小説は読まなかった。『ドライブイン・真夜中』を手に取ってみて初めて、U-NEXT発のオリジナル小説があることを知る。紙の書籍として刊行されているのは一部らしく、作家のラインナップを見ていると気になる作品もあったので、いつかU-NEXTに課金して読んでみてもいいかもしれない。

図書館に焦点を当てた旅行エッセイとして、『図書館ウォーカー』があまり注目しない施設を取り上げていて面白かった。建物だけではなく、ホテルや温泉と同じ建物だったり、海の見える図書館だったり、変わった属性を持った図書館が多く紹介されている。積極的に観光先で図書館に行こうとは思わないが、時間が空いたりするとついでに寄って地域の色を感じてみたくなった。紹介されている中で行ったことのあるのは堺市立図書館だけだった。