エドワード・ゴーリーの優雅な秘密

  最初に何を書こうかと考えた結果、先週土曜日に行った練馬区立美術館のエドワード・ゴーリー展について書くことにする。訪れてから1週間近く経ち、あまりメモもしなかったために記憶もあやふやな所が多いが、思い出せる限り書いていこう。

 

 

 

 地元の図書館で本を返し、電車とバスを乗り継いで練馬区立美術館に到着したのは15時半頃。ぐるっとパスで企画展無料なちひろ美術館東京を訪れ、そこから歩いて訪れる予定を組んでいたが、始動が遅れてしまったのでこちらだけとなった。

 

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練馬区立美術館おなじみのクマさん

 練馬区立美術館に来たのは2017年の麻田浩展以来だ。あの展覧会は、人があまりいない中、一点一点時間を掛けて作品をじっくりと鑑賞できる幸せな時間だった。カラフルな幻想動物達が生息する公園を抜け、建物に入ろうとして驚く。自動ドアがゴーリー仕様となっているではないか!『ギャシュリークラムのちびっ子たち』に登場する最初の2人。何とも不穏な雰囲気の入り口だ。

 

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ベイジルとエイミー

 ぐるっとパスで500円引きとなりチケットを購入。企画展無料にはならなかったが、上野エリアの割引を思うとかなり良心的だ。予想していたよりも遥かに混んでいる気配がする。2階へ通じる階段は長蛇の列だし。建物に入ってすぐの所には、壺に乗るうろんくんのパネルが。

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うろんの姿に 我感激

 第1展示室に入って驚愕した。かなり混みあっている。上野で展覧会を鑑賞している気分だ。人の列が動かない。それほど強く宣伝されていた印象はなかったし、ここまで人気だとは全く思っていなかった。ゴーリーファンってこんなにいるんだな。全員がファンではないだろうけれど、それでも人が多い。最初に展示されているのがデビュー作の『弦のないハープ』の原画だったことに感動しながら、同作の主人公であるイアブラス氏よろしく困惑していた。

 どの程度まで至るとファンと言えるかはわからないが、10月に邦訳が刊行されたばかりの『狂瀾怒濤 あるいは、ブラックドール騒動』以外の邦訳ゴーリー絵本は一通り読んでいる。それもあって、この展覧会は最近開催される展覧会の中では一番楽しみにしていた。楽しみにしていたのだが、この環境はちょっとなあ……。これぐらいで萎えてしまう程度のファンだったということか。絵本の原画という物をいかに鑑賞すべきなのか、自分の中で答えが出ていないのもある。

 とは言え、やはり原画を見ていると作品を読んだ時が思い出され、こんな話だったなあ、また読もうかという気持ちが湧いてくるから、混雑に辟易しながらも楽しんで鑑賞していた。絵本と訳者解説ぐらいしか読んでいない身からすると、キャプションに知らなかった情報が多いのも良い。入口でメモ用鉛筆を借りられなかったのもあって、あまりメモを残せなかったのが残念だ。ゴーリー自身は、自らの絵本を大人向けというカテゴリーに入れずに子ども向けと言っていたそうな。出版社判断でそうはならなかったが。

 何より嬉しかったのは、日本語に訳されていない絵本の原画とあらすじが展示されていたことだ。曲がりなりにも一通りの絵本を読んできた以上、知らない作品は日本語で刊行されていないことになる。こんなにも日本語で刊行されていない絵本があるのか。惜しい。読みたい。読んでもらいたい。『死の菱形:アルファベット』『金メッキのこうもり』『鉄分強壮薬:あるいは寂しい谷間の冬の午後』…………。原著で読もうかな。

 

 こんな意識を抱きながら、人山の後ろから原画とキャプションを一通り見て第1展示室は過ぎて行った。うろんくんのぬいぐるみもあったよ。階段を上りながら、並んでいた長蛇の列はグッズ販売列であることを知る。これまたすごいな。確かにゴーリー絵本はグッズ映えしそうな気がする。

 第2展示室は絵本原画の続きと、ゴーリーが文学作品のイラストを手掛けていた際の原画の展示。ゴーリーの絵という段階で、作品世界にその彩りが現れる感じがした。国際子ども図書館でやっている展示会を見ていると、同じ作品でも絵によって築かれる世界が一変するのを実感する。

 第3展示室は手掛けたポスターの展示が主だったか。展示室の移動の間のベンチに置かれていた展覧会図録を開いてみたが、最も掲載されていてほしいキャプションが全然載っていないことがわかったので、図録を購入するのは断念した。画像資料を数多く掲載することは確かに重要だと感じるのだが、一作一作の背景知識をまとまった形で掲載している物が欲しかった。そういうのは、まだ手を出していないインタビュー集などを読むべきかな。あと、グッズ販売コーナーは人の多さに撤退の一手を決め打ったが、A5ファイルとペンケースは買っても良かったかもしれない。

 

 微妙な感想になってしまったが、日本語訳されていない絵本の世界と、絵本以外のゴーリーの仕事を鑑賞できたので、かなり楽しめた展示だった。ゴーリー作品についてあまり知らない方も、展示の最後に絵本を読めるコーナーがあるので、是非訪れてみてほしい。久々にゴーリー絵本を読もうかな。ゴーリー絵本を好きな理由はいくつかある。韻を踏んでリズムよく読める固めの文体の柴田元幸訳に惹かれたというのもあるし、不条理で救われない作品世界に現実を見て面白く感じるというのもある。とりあえず、MOE2019年12月号のエドワード・ゴーリー特集と、『どんどん変に…―エドワード・ゴーリーインタビュー集成』を読むことにします。来週までやっている以上、もしかしたらまた訪れるかもしれない。

 

 あまり中身が無いが、こんな感じで綴っていこうと思う。