ラウル・デュフィ展― 絵画とテキスタイル・デザイン ―

 11月も終わる30日土曜日、パナソニック留美術館に行った。最近は雨が多かっただけに、晴天の日に外を歩けることがいつも以上によろこばしい。寒さが強まって寝床から出るのに時間が掛かったため家を出立したのが遅く、新橋駅に到着したのは15時半頃だった。JRの新橋駅ばかりを利用していたから、メトロの新橋駅から行くのは初めてだ。こちらから行く方が道がわかりやすい。寒さに震えた昨日よりはマシな気温だった。

 

 パナソニック東京汐留ビルに入ってエスカレーターに乗る。毎度のことながら、未だに手動の回転ドアが入口になっていることに驚いてしまう。普段そういう場所に近寄らないからなあ。1階のTOKYOリノベーションミュージアムを横目に通り過ぎ、4階へと上がっていく。そこまで興味がある訳ではないが、無料の展示施設ということもあって一度ぐらいは入ってみたい。今回はそんな気分でもなかったのでスルー。4階に辿りついて驚愕した。受付の外に列ができており、入場制限を行っているとのこと。十数回ぐらい訪れたことはあるが、こんなことは初めてだ。そんなに人気がありそうな展覧会とも思えなかったのだが。急いで列に並んだが、10分も待たないうちに受付を済ませて入場することができてよかった。ぐるっとパスを使ったので入場料は無料。

 

 

 最初の第1章のエリアは絵画が展示されていた。一番最初に目に入った『グラン・ブルヴァールのカーニヴァル』は印象派風の作品だったが、それ以降の作品は印象派からフォーヴィスムに近い方向に移っていく。フォーヴといっても荒々しいタッチではなく、爽やかな明るさがある感じというか。海や音楽関連の事物を描いた作品が展示されていた。『ピエール・ガイスマール氏の肖像』は面白い絵だった。男性の後ろに外の風景が窓から覗いていると思ったら、よく見ると窓枠も無く、外景と連続して部屋の中の風景が続いていく。これは外の風景ではなく風景画が飾ってあったのだ。額に収まった絵画らしい絵画ではないが、部屋の風景と隣り合って絵画がいくつも画面に配置されている。曖昧な感じに部屋全体の雰囲気が伝わってくる。『ニースの窓辺』の明るい全体の画面と穏やかな海、『オーケストラ』に描かれた演奏の空気。その場の空気を感じているような気分になる。シンプルな線ながら、目に軌跡が残る曲線だった。『シャンデリアのあるアトリエ』のキャプションに記されていた言葉が印象に残った。「自らの病気や世界の動乱が作品に反映されてはならない」。

 

 次の第2章から最後まで、デザインの展示がメインだった。第2章はアポリネールの依頼で手掛けた『動物詩集またはオルフェウスの行列』の挿絵の展開。木版画が展示されており、その後にテキスタイルが続く。テキスタイルを見ていると、先週行ったPixel Art Parkを思い出す。ドット絵っぽい。植物と共に配置されているのもあるが、亀のデザインが甲羅の模様から花にしか見えなかった。後は地が黒いジャングルのテキスタイルで、象の牙が金地でデザインされていて、闇に牙が輝いている風景として面白かった。それにしても、様々な姿の象をデザインに取り入れているのだな。布地用の版木が展示されていて、なるほどこういう物も存在するのかと初見の物に驚いていた。それにしても細かい。

 

 第3章。「花々と昆虫」ということで、章立てで、文字通り花と昆虫を用いたデザインの展示。デュフィが図案デザインを手掛けていた20世紀初期は、女性の衣服デザインがシンプルとなり、その分テキスタイルの絵柄で魅力を競った時代だそうだ。バラを用いたデザインといい、現在でも違和感なく受け入れられる物だった。印象に残ったのは蚕を用いた図案。幼虫・繭・蛾がしっかりとデザインされており、気持ち悪くない……いや、やっぱり色によっては気持ち悪いわ。八王子の道の駅で購入した「かいこの一生」というチョコレートを思い出していた。幼虫・繭・蛾を象ったチョコレートで、味も美味しかった。

 

 第4章。「モダニティ」。自然に限らず現代的なモチーフが布地に現れてくる。テニスとか。最初に展示されていた『ヴァイオリン』が、デュフィの世界をデザインに落とし込んだ良い作品だと思う。花の図案に、ヴァイオリンを分解したパーツや五線譜がうまく組み合わされている。その隣に展示された絵画『黄色いコンソール』はデュフィらしい絵画。コンソールと共に、その上に置かれたヴァイオリンを描いた絵画。黄色が画面の多くを覆う中に、ヴァイオリンとコンソールを象る線が目立つ。色で絵画の中の空気が作られていく感覚。シンプルな線で描かれた事物、そしてそれにまつわる空気を画面全体で放っているような感じ。物への印象、物から感じる印象とはこういう物じゃないだろうか。その後は幾何学的なデザインの布地の展示で終わる。全体として、今でも使えるデザインな印象を受けた。デザインは全然わからないけれども。

 

 最後はルオーギャラリーで作品を見て終わり。ルオーの作品は、盛り上がった絵の具が持ち味な気がするので、版画作品にするとあっさりしているなと感じてしまう。ラウル・デュフィの作品はいつぞやBunkamuraミュージアムで見た『電気の精』ぐらいしか無かったので、この度明るい作品世界とモダンデザインの側面を知られて良かったな。入口で入場制限はあったものの、中はそこまで混雑していなかったのも良かった。