11月に行った展覧会のまとめ
ギャルリVEGA 佐々木幹夫作品展「紙皿に描いた 偉人たちの名言集」
逸翁美術館 漆芸礼讃-漆工・三砂良哉-
神戸税関広報展示室
生糸検査所ギャラリー
神戸華僑歴史博物館
FELISSIMO GALLERY ミュージアム部展
神戸市立博物館 コレクション展示
京都写真美術館ギャラリー・ジャパネスク 清永安雄写真展「Moment of one second」
京都写真美術館ギャラリー・ジャパネスク 大坂寛写真展「bondage」
京都市京セラ美術館 巨匠たちの学び舎 日本画の名作はこうして生まれた
京都市京セラ美術館 MIKADO2:ワニのためのフーガ
京都市歴史資料館 賀茂季鷹と古典の「知」-京都市歴史資料館寄託山本家資料展-
京都市学校歴史博物館 京都の洋画―京都で描く・京都を描く―
京都蔦屋書店 ART SESSION by 京都 蔦屋書店
京都蔦屋書店 岩崎貴宏個展「箱景」
京都蔦屋書店 作田優希「留められた景色」
堺アルフォンス・ミュシャ館 アフィショマニ!ミュシャマニ!
堺アルフォンス・ミュシャ館 ミュシャLabo#05「特集!リトグラフ」
髙島屋史料館 DESIGN MANIA~百貨店・SCのデザイン~
大阪市立科学館 日本の科学館は大阪から
大阪中之島美術館 Osaka Directory 7 Supported by RICHARD MILLE 小松千倫
大阪大学中之島芸術センター 旅するカミサマ、迎える人々~伊勢大神楽と阿波の木偶まわしにみる家廻り芸能の現在
阪急うめだ本店 武田双雲展 天真爛漫~innocence~
阪急うめだ本店 藤岡ちさ絵画展 星空パーティー
昨年知ったIKEDA文化DAYという池田市の文化施設のウォークラリーに参加してみた。文化の日を含んだ3連休の間に池田市内の文化施設を巡り、11施設全てを周ると参加賞がもらえたり、景品の抽選会に参加できたりするイベントだ。期間中には落語会や音楽コンサートが開催されるほか、産総研関西センターの一般公開が行われるなど、ウォークラリー以外にも様々な催しが行われる。展覧会好きとしては、普段は有料の逸翁美術館と小林一三記念館が無料になるのが嬉しい。この日も逸翁美術館の展示を見るために池田市まで出かけていった。
池田駅の改札を出て左に進んだところでウォークラリーの台紙をもらってスタート。あいにくの雨と神戸で見たい展示があったのとで、周る場所は逸翁美術館だけと決めていたが、駅のすぐ近くにあったギャルリーVEGAの展示だけざっと鑑賞。池田市を歩くのは3度目になるが、市役所や警察署が面する大通りから突き当りを右折し、坂を上って逸翁美術館へ至るルートを毎回歩いている。大雨の中で上り坂を進むのはなかなか大変で、美術館に着く頃には靴に染み込んだ水で足先が冷たさを通り越して少し痛かった。
今回の特別展は大正から昭和にかけて活躍した三砂良哉という漆芸家に焦点を当てた展示で、彼を大々的に取り上げた日本初の展覧会らしい。両手に収まる小ぶりな薄茶器から展示が始まった。シンプルな黒地や無地の木に蒔絵や螺鈿で模様がすっと施され、落ち着いてまとまった美しい茶道具が並ぶ。楽譜が蒔絵で施された黒地の棗は、以前来館した時に目にした小林一三イチオシの品と同じだと思う。自ら制作した歌劇の楽譜を施した茶器を茶会で出したものの、誰からもそのことに気づいてもらえずに残念がったという代物。続く第2章は壊れたスペイン扇子の親骨などを用いた香合の展示。扇子の親骨という小さな場所に細やかな蒔絵を施し、香合に生まれ変わらせた発想と技量がすごい。第3章は風呂先屏風や炉縁といった大きめの茶道具の展示が続き、章の最後は茶杓という小品に戻った。撮影可の石蕗の葉が大きく描かれた蒔絵盆を、他の人が映り込まないように撮影して第4章へ。第4章は懐石道具と菓子器。一見すると黒一色の無地の盆だが、微かなでこぼこがよく見るとあって、鶴が施されていたと気づく黒地の盆が強く印象に残った。夜桜塗と呼ばれる手法らしい。最後の第5章はそれ以外の手仕事の展示。これまた撮影可だった黒地蜜柑蒔絵手箱を写真に収めて展示室から出た。大阪画壇で名を馳せた須磨耐水と組んだ作品がいくつかあり、どれぐらいの深さかはわからないが同時代の芸術家と繋がりを感じた。
池田駅まで歩き、電車に乗って神戸三宮駅に着く頃には雨は上がっていた。フラワーロードを南下し、神戸税関の広報展示室と向かいのKIITOにある生糸検査所ギャラリーで展示を見た後、神戸華僑歴史博物館、フェリシモのミュージアムグッズ展、神戸市立博物館のコレクション展を見て一日が終わった。雨じゃない日にIKEDA文化DAYのウォークラリーはいつか全施設制覇してみたい。
11月に読んだ本のまとめ
赤松りかこ『グレイスは死んだのか』
岩井圭也『われは熊楠』
市街地ギャオ『メメントラブドール』
相馬拓也『遊牧民、はじめました。 モンゴル大草原の掟』
平芳裕子『東大ファッション論集中講義』
和田光弘『アメリカは、いかに創られたか レキシントン・コンコードの戦い』
光文社新書の『遊牧民、はじめました。 モンゴル大草原の掟』が面白かった。長年モンゴルでフィールドワークをしてきた人文地理学者が遊牧民の生活を赤裸々に綴っていく。数々の狼藉を受けた経験談から始まり、遊牧民と暮らし、放牧についていき、肉を食らい、生活に入って行く中で、草原での暮らしに荒々しい気性の理由を感じていく。
冬は極寒の気象の中で家畜頼りの生活を送る遊牧民との暮らしは、牧歌的で悠々自適な生活を送る遊牧民のイメージとは大きく異なっていて、家畜の移動にトラックが用いられたりと現代化しているのも印象的だった。
市街地ギャオの『メメントラブドール』は、Tinderでノンケ男を釣って喰っては動画をTwitterの裏垢にあげ、平日昼は院卒インフラエンジニアとして働きながら、家賃のために夜には男の娘コンカフェのキャストという副業をする、元「高専の姫」たる20代男性を描いた小説。盛られた主人公の設定だけでもう面白くて手を出したが、周囲を評していく言葉がインターネットで人を刺していく言葉で、その嫌な鋭さを小説という形で読めたのが良かった。主人公は好みのタイプとしてチー牛と述べているが、その具体例に思わず笑ってしまった。「マイナーなスマホゲーに可処分時間の大半を捧げていて、そのざまを自虐的に話しているときが一番楽しそうだ。スマホゲーをしている男のなかでも特に、残りの可処分時間をポケモン対戦に費やしているような男が私は一番好きだった。」簡単に垢抜けにアクセスできるようになったため、本物ではないチー牛として交雑牛という語を生んでいるのも面白い。「Tinderのチー牛は大半がナードとカルチャーの交雑牛なのだ。」