9月に行った展覧会のまとめ
造幣博物館 造幣局と戦争Ⅱ~戦時下を生きた職員たち~
国立文楽劇場資料展示室 文楽絵画の華
髙島屋史料館 Imperial Warrant 皇室の御用達
大阪府立中之島図書館 山崎豊子パネル展Ⅱ-戦争三部作を中心とした、作家・山崎豊子の平和への思い-
阪急うめだ本店 2025 アール・ヌーヴォー 魅惑の煌めき ガレ・ドームガラスの世界展
大阪歴史博物館 YABU MEIZAN
大阪歴史博物館 大阪の宝 in 大阪歴史博物館
大丸心斎橋店 ガレ&ドーム アール・ヌーヴォーガラスの美展
狭山池博物館 2025年度博物館実習生展「祈りの旅 ~命がけの巡礼~」
狭山池博物館 古代河内湖沿岸の地域開発と水運
さかい利晶の杜 線路はつづくよ堺まで -オモチャと実物でたどる「世界・日本・堺」の鉄道の歴史-
堺市役所高層館展望ロビー 『ゴルゴ13』×堺市 「さいとう・たかを劇画の世界2025」
大阪大谷大学博物館 関西のスポーツ産業の「むかし」と「いま」-スポーツ用品からトップスポーツまで-
月末に大阪・関西万博に行ってきた。早い時期にチケットを入手していたものの、様子見しているうちに炎天下の夏休みシーズンとなり、気温が少し下がってそろそろ行くかと思い始める頃には閉幕近づく駆け込み期になっていた。午前に入場したかったが妥協し、東ゲート12時入場をどうにかもぎ取ったのが閉幕のちょうどひと月前。数日後に空き枠が完全に無くなったニュースが流れたので、入場枠を確保できただけマシだった。7日前予約と3日前の空枠予約は全敗してパビリオン予約の無い状態で当日を迎えた。
髙島屋史料館の「万博と仏教」展を監修した君島彩子による宗教文化に関するパビリオンの紹介記事*1、海外マンガのブックカフェ・書肆喫茶moriの万博で出会えた海外マンガレポnote*2、大阪特集号だった『芸術新潮』2025年6月号の万博レポの3つを参考に、Xで比較的並ばず入場できるパビリオン情報を漁り、行き場をいくつかピックアップして出発した。東ゲート予約でも西ゲートに移動して入場できるらしいので、予約時刻である12時の1時間前に夢洲駅に到着。入場待ちの人の山で東ゲートの入場口が見えない。連なる万国旗の下に並んで西ゲート移動の解禁時刻を待つ。10分ぐらい本を読んでいると列が動き始めた。会場に背を向けて迂回路へ踏み出すと、フンデルトヴァッサー建築のカラフルな塔が遠くに見えた。前を歩く人のリュックで揺れるミャクミャクが収まったぬいポーチが妙に目についた。途中で大阪IRプロジェクトの新築工事事務所が目に入り、万博後のカジノ用地利用のことを思い出した。20分ぐらい歩いて西ゲートに着き、混雑の無い手荷物検査を抜けて入場できたのは11時半過ぎ。東からの入場だと13時を過ぎていただろうから、さっさと入場できて良かった。案の定混雑はしているものの身動きを取るのが難しいほどではなく、その辺のベンチにも座れる場所はちゃんとあった。中学校名が印刷された腕章を付けた人が歩いていたり、小学生らしき集団がパビリオンに並んでいたりと、あと2週間の会期でもまだまだ学校行事での来場はあるようだ。
東京に居た頃に阿佐ヶ谷のミニシアターでチェコアニメを何本か観て興味を抱いていたので、最初にチェコパビリオンに向かった。15分ほど歩いて待機列に並び始め、10分足らずで初のパビリオン入場を果たした。ガラス張りの外壁のらせん回廊を上っていく構造で、壁に描かれたドローイングをはじめ、主に内側に美術品などが展示されていた。ドローイングよりはガラス工芸品に惹かれ、公式マスコットのレネのガラス彫刻や、『ハーバリウム』というガラス作品がいくつも吊り下がったインスタレーションが印象に残る。後者の吊り下がった個々の作品がナンに見えてしまい、コンセプトらしい自然の儚さ以上にインド料理屋でひたすらナンをおかわりする光景を想起してしまったが。チェコの先端産業として国内企業Prusa Researchの3Dプリンターが展示されており、業界での立ち位置は不明ながら同国に3Dプリンター企業があることを知る。大阪大谷大学博物館で3Dプリンターで製作された展示資料を最近目にし、本物の代替品としての展示利用がもっと進むと良さそうと感じたので、3Dプリンター出力らしき人形が展示されていたのは興味深かった。チェコが参加した歴代万博をレネの入ったイラストとともに解説する英語のパネル展示を後で読もうと撮影し、グラフィティアートっぽいJosef Ratajの絵画作品を鑑賞して屋上へ。中国、クウェート、オーストリアといったパビリオンが見えた。レストランを横目に階段を降りていって退館。

スイス、オーストリア、ブラジル、中国と近くに立ち並ぶパビリオンがどこも入場規制しているのを見て、なるほど並ばない以前にもはや並べない万博になっているのかと悟る。並ぶ人がいなかった国際機関館にとりあえず入り、一応の目的地にしていたコモンズA館も入口前に人が見当たらなかったので入館。それぞれの規模は小さいとはいえ、30近い国の展示を見るのは一通り周るだけでも疲れてくる。すぐ入れることに定評のあるUAEパビリオンで木の匂いを味わい、ぐるっと北西部に回ってバーラトパビリオンへ。メインの展示よりは窪みにポツポツと展示されたテラコッタ作品が印象に残った。お隣のインドネシアパビリオンも比較的並ばないらしいが入場規制で入れず、数個隣のスペインパビリオンへ。
列が進むのが早いらしいのと海外マンガ情報から、スペインパビリオンの列に並ぶ。20分ほどの待ち時間で入場。ほの暗い空間に青い光がぼんやり光る水族館のような空間で、海をテーマにしていくつかのトピックがパネル展示などで展開されていた。まずは日本との縁として、1609年の千葉県沖で難破したガレオン船の救助と、1613年の伊達政宗による支倉常長のスペイン・イタリアへの派遣が紹介されていた。この交流史が黒潮をキーワードに語られ、海流という視点から海というテーマに沿った展示に仕上げられているのが面白い。通路を挟んで反対側にあったのが、19世紀にイギリス軍により沈没させられた船の積み荷を巡る裁判の解説パネルと、その顛末を描いたパコ・ロカのマンガだった。この難破船を略奪して調査を妨げていたトレジャーハンター会社と、船と積載物はスペイン国家に属すると主張するスペイン政府との間で裁判となり、政府側の主張が通った水中遺産保護の事例として挙げられてた。書かれた文字は読めないものの、『皺』で知られるパコ・ロカのマンガをまた見ることができたのは嬉しい。その後はドン・キホーテの風車の話に絡めて洋上風力発電技術について紹介したり、海洋資源の中でも藻類に焦点を当ててバイオテクノロジー技術について展示していたりしていた。スペインで海といえば大航海時代が思い浮かぶが、今の時代に大航海時代の話を万博という舞台ではなおさらできる訳も無く、その中で日本との繋がりと先端技術アピールを組み込んで展示としてまとめあげていたのは印象に残った。
そろそろ並ぶ所にも行ってみるかとうろつき、最大3時間待ちと微妙な言い回しをしていた中国パビリオンに並ぶ。読んでいる小説があと数章になったところで入場できた。待ち時間は約40分。手を上げて会釈してくれる人型ロボットが入口にいたがスルーされた。入ってすぐのモニターで『黒神話:悟空』のプロデューサーが語る映像が流れていて、中国の諸産業の中でゲームプロデューサーがここに選ばれるのかと驚く。中国絵画風のタッチで季節の移ろいを描いたカラーアニメが巨大なモニターで流れていた。ほどほどに観た後、展示ケースの中の資料を順に見ていった。殷末期の卜骨、西周の青銅器、顔真卿の『明拓干禄字書冊』、清代の印刷技術を記した『欽定武英殿聚珍版程式』と、長きに渡る中国の歴史を感じさせる展示物が並ぶ。展示ケースがモニターになっており、タッチすることで展示物の情報や3Dモデルがケース上に表示される便利技術がさらっと披露されていた。こちら側からは見えない現物の裏にある模様などが3Dモデルをぐりぐり動かせばあっさりと見ることができる。『明拓干禄字書冊』などの冊子は3Dモデルの代わりにページを開いた拡大映像が表示され、ページをめくって中身を確認できる。目の前の時代の重みある資料以上に、この展示ケース技術の方に感銘を受けた。導入場面は限られそうだが、美術館や博物館の展示で使われているのを見てみたい。国立公園の生き物を紹介する横長モニターを流し見して2階へ。階段には日中交流史を彩る人々のレリーフがずらっと並んでいて、これもまた見応えがあった。鑑真和尚、松下幸之助と握手する鄧小平、鉄腕アトムと孫悟空など。宇宙船と深海に関する展示を見て退館。
行っていなかった南西エリアへ向かうも、どこに並べばいいかもわからない列に辟易し、歩き回ってパビリオンの外観だけを眺めていた。外食パビリオン宴の2階でちょっとした展示を見て、バーチャル万博での展示が良かった覚えのあるトルコパビリオンに並ぶ。30分ほど並んで入館したが、大してモノの来ていないパビリオンで落胆した。万博会場で見てねと投げっぱなしな展示をするパビリオンも多いバーチャル万博の中で、比較的マシな所だったと思うが現実は厳しかった。苦戦の末に19時から飯田グループ×大阪公立大学パビリオンの当日予約が取れたので、それまでの時間潰しにあまり並んでいないパビリオンを攻めていく。アルメニア、ブルネイ、モザンビークと周ってリングサイドマーケットプレイス西を覗き、大屋根リング下のベンチで小説を読んでいると良い時間になったので飯田グループパビリオンに入った。未来の都市をテーマとして展示で、未来都市の巨大ジオラマを中心にスマートシティや人工光合成、未来の住宅デザインの解説がなされていた。最初に高松伸が設計したパビリオン自体の説明があり、2つのギネス記録に認定されたとPRされていたが、「世界最大の扇子形の屋根」と「世界最大の西陣織で包まれた建物」じゃなあ……。パビリオンという一時の構造物がギネス認定されるのもどうなのだろう。一通り展示を眺めて退館。19時も過ぎてタイムリミットとしての入場規制がかかる中、並ばずにバングラデシュ、セネガル、コモンズEと周り、15分ほど並んでブラジルパビリオンの展示を見て万博会場を後にした。セネガルの展示で、大きなモニターで奴隷貿易の負の歴史を持つゴレ島の映像解説がずっと流れていたのが心に刺さる。可能な範囲でまあまあ楽しんだ一日だった。
9月に読んだ本のまとめ
逢縁奇演『こちら、終末停滞委員会。』4巻
葉山博子『南洋標本館』
浅川満彦『獣医さんがゆく 15歳からの獣医学』
岡田温司『人新世と芸術』
ちいさな美術館の学芸員『忙しい人のための美術館の歩き方』
戸部田誠『王者の挑戦 「少年ジャンプ+」の10年戦記』
友松夕香『グローバル格差を生きる人びと 「国際協力」のディストピア』
永井孝志、村上道夫、小野恭子、岸本充生『世界は基準値でできている 未知のリスクにどう向き合うか』
長谷川直之『天気予報はなぜ当たるようになったのか』
法念『アフリカの歴史と今がわかる本』
松本俊彦『身近な薬物のはなし タバコ・カフェイン・酒・くすり』
万博の行き帰りと待機列で、3分の1ほど残っていた『南洋標本館』を読み終えた。かなりの時間を並んで過ごすと思っていたので他に小説を2冊持って行ったが、他の本は開く暇も無かった。日中戦争期のベトナムを舞台としたデビュー作の『時の睡蓮を摘みに』に続く第二作は、日本統治下の台湾で育ち、ともに植物学者を志す日本人青年と台湾人青年の2人の戦争に翻弄されていく人生を描いた歴史小説だった。日本の植民地下にあるから日本国籍ではあるものの、二等公民の台湾人であるがゆえに出世の道は無く、学問の世界でも安定したポストを得ることはできない。抗日闘争に関わった実父の過去を知り、台湾の本土復帰を目指す抗日運動への誘いを受けてアイデンティティを揺さぶられながら、日本人として、植物を採集し研究する学者として生きていく。日本人青年は台北帝国大学の研究者となり、台湾人青年は陸軍軍属の技師となって南洋地域の植物調査へと旅立っていく。そして日本の敗戦によって日本と台湾の立場は一変し……。タイトルの「南洋標本館」からどこかの植物館の設立物語かと思って読み始めたが、前作と同じく植民地統治下で暮らす様々な立場の人々が戦争で揺さぶられていく重たい作品で、そこに戦時下の学者の軌跡が描かれていたのが興味深かった。謝辞を見るに植物学者の細川隆英がモデルの一人なのかな。
*1:ちえうみPLUS「大阪・関西万博で宗教文化に出会う[前編]」
https://chieumiplus.com/article/column-expo2025-part1
*2:note「大阪万博に行ってみたら意外に海外マンガに出会えたレポ大阪万博に行ってみたら意外に海外マンガに出会えたレポ」