11月に行った展覧会のまとめ
逸翁美術館 あの作品に会いたい!~推しの作品、紹介します~
大阪大学総合学術博物館 薬学のチカラで未来を創る~大阪大学薬学部のあゆみと挑戦~
心斎橋PARCO 「パルコを広告する」 1969 - 2025 PARCO広告展
北御堂ミュージアム 加島屋400年「商都・大坂を支えた豪商と信仰」
大阪府立中之島図書館 天保擾乱-大塩平八郎の実像-
川の駅はちけんや Hi ship!Project企画展「水都大阪の防災展」
大阪くらしの今昔館 大阪の商人が支えた芸術文化-浅野家伝来資料より-
近畿大学実学ホール 知に歴史ありー近畿大学創立100周年記念特別展示
大阪商業大学商業史博物館 知られざる豪商 岩城升屋
大阪商業大学アミューズメント産業研究所展示室 大囲碁史展-囲碁史料の深奥に迫る
髙島屋史料館 Imperial Warrant 皇室の御用達
WESTOON大阪日本橋 lack個展「シネマ珈琲紳士」
松原市郷土資料館 三宅西・池内・大和川今池遺跡にみる松原の古墳時代ー阪神高速6号大和川線の発掘調査成果を中心にー
大阪市立自然史博物館 学芸員のおしごと −集める・調べる・伝える−
京都御所 京都御所 宮廷文化の紹介
京都精華大学ギャラリーTerra-S 眠りから目覚めた名品たち–京都精華大学ギャラリーTerra-Sコレクション展2025–
京都工芸繊維大学美術工芸資料館 幻燈(ガラススライド)で知る世界のデザイン―パルテノン神殿からアール・ヌーヴォーまで
京都工芸繊維大学美術工芸資料館 ポスターで見るアール・デコ誕生とその後
京都府立京都学・歴彩館 京の鳥瞰図絵師 吉田初三郎 ―没後70年によせて―
京都dddギャラリー C-GRAPHIC/TAIPEI 2020年代台北のグラフィックデザイン
数年ぶりに北御堂ミュージアムや大阪商業大学に行って変わらない特色ある展示内容に懐かしさを感じたり、松原市郷土資料館や川の駅はちけんやなど存在だけ知っていた新たな場所に行ったりと、よく行くいつもの施設以外にも結構訪れることができ、新鮮な気分で展示を楽しんだ月だった。その中でも、初めて行った近畿大学の貴重書展は特に心に残った。
地元の図書館でチラシを見かけ、会期の最終日に近畿大学へ出かけて行った。東京で貴重書展といえば慶應義塾大学が開催している印象だが、関西に来てからは寡聞にして開催されているのを聞いたことが無かった。当日もらった出展リストの「近畿大学貴重書展のあゆみ」によると、実際にはコロナ禍の時期を除いて毎年開催されていたらしい。博物館の展示でも美術展でもない物はどうやって情報を集めればいいのか今でもわからない。企業博物館の企画展や百貨店の美術展、美術館でやらないアニメやマンガの展覧会、図書館系の展覧会など、展覧会情報をまとめているサイトでも網羅していない催しは多く、通いなれたおなじみスポット以外は目に入らない情報を得るのが難しい。今回は展覧会チラシを入手できて幸運だった。まだまだチラシも馬鹿にならない。
近鉄の長瀬駅で降り、目に入った「近大通り」のゲートをくぐって通りを歩いていく。飲食店の多い商店街の先に、大きな入口を持つレンガ造りの建物があった。門をくぐって大学創設者・世耕弘一の銅像を眺め、右に歩いていくと貴重書展の看板が出ていた。会場はガラス張りのホールで、敷設された展示ケースと壁面ボードに貴重書がびっしり展示されていた。ほとんど人がいない訳ではないが、好きな展示物を自由に選んでじっくり見られるぐらいの混み具合でちょうど良い。楔形文字の粘土板やヒエログリフのパピルスから始まり、1240年頃のウルガタ聖書に42行聖書と、初っ端からコレクションに圧倒される。壁面の展示から離れて展示ケースを覗いてみれば、トマス・ホッブス『リヴァイアサン』、ジョン・ロック『統治二論』、ジャン=ジャック・ルソー『社会契約論』に、ガリレオ・ガリレイ『天文対話』、ニコラウス・コペルニクス『天球の回転について』、アイザック・ニュートン『自然哲学の数学的原理』と、教科書などでもおなじみの有名本が開いた状態で展示されていた。すごい物が並ぶ中で特に興味を惹かれたのは、書物が貴重だった時代を窺わせる鎖付聖書、渦巻く蔓や紋章が施された金属透かし細工の枠が付いた祈祷書、パピエ・マシェにより細かな木彫り彫刻のような装幀がなされた主のたとえ話の3冊が収められた展示ケース。概念は知っていても聖書に付けられた鎖は衝撃的で、異様なまでに壮麗な宗教書と共に強く印象に残った。豪華な装幀では、表紙に宝石が埋め込まれた宝石本(jeweled binding)も目に留まった。華やかな装幀としてこういう方向に進んでいったのか。また壁側の展示に戻ってカール・マルクスの自筆書簡を見てからは、日本の貴重書や西洋古版地図と展示物の雰囲気がガラッと変わった。日本どころか製作年の判明している中では世界最古の印刷物である百万塔陀羅尼に始まり、春日版妙法蓮華経、天文版論語などが続き、16世紀のアジア図をはじめとする地図が壁一面にずらっと並ぶ。展示ケースには江戸期の古活字本の『徒然草』や『伊勢物語』、写本の『古今和歌集』に、近世日本で出版された中国の書物が陳列されていた。大河ドラマにちなんだ江戸期の出版文化コーナーもあり、遊郭文化を紹介したベストセラー『吉原細見』などが陳列されていた。物量で終盤は疲れてあっさり目で周る。地図のカルトゥーシュという装飾枠に描かれるイラストがそれぞれ時代感が出ていて面白かった。これから古い地図を目にする時に注目しよう。展示最終日で終了時間が早いため少し急ぎながらなんとか一通り見終わり、アンケートを書いて今回の特別展仕様のクリアファイルをもらって展示会場を出た。来年もあるなら行きたいな。11月に毎年開催されているみたいだから、その頃にまた調べることにしよう。
11月に読んだ本のまとめ
えるぼー『炒飯大脱獄』
イーダ・トゥルペイネン『極北の海獣』
伏見七尾『獄門撫子此処ニ在リ』4巻
明田川進『音響監督の仕事』
今尾恵介『遊べる、学べる、役立てる 地理院地図の深掘り』
加藤喜之『福音派 終末論に引き裂かれるアメリカ社会』
三浦篤、森村泰昌『キテレツ絵画の逆襲 「日本洋画」再発見』
ほし『遺失物統轄機構』
人間の手で絶滅に追い込まれたというエピソードで知られるステラーカイギュウ。フィンランドの作家イーダ・トゥルペイネンがフィンランド語で執筆した『極北の海獣』は、そんなステラーカイギュウを物語の中心に据え、この生き物に関わって生きた人々をいくつかの時代ごとに三部構成で描いた小説だ。ヘルシンキの自然史博物館に展示される巨大な骨格標本はいかにこの場所に至ったのか。ベーリング海峡に名を残すヴィトゥス・ベーリングを探険隊長として、博物学者ゲオルク・シュテラーら探検隊がシベリアの果ての先の海に挑む第一部。難破して飢えや病気で苦しむ中でシュテラーが発見して彼の名が冠されるようになる大きな生き物は、船員らの極限状態をしのぐ糧となったが、こうしてヒトに発見されてしまったことで絶滅に至る。ベーリングの探検からわずか30年足らずで。第二部ではロシア領アラスカ総督に就任することとなったハンプス・フールイェルムとその妻アンナの植民地経営と生活の苦心が描かれる。ラッコの数まで減りつつある不毛の地で発見された希少なステラーカイギュウの骨は、ロシア帝国の片隅の奇跡として植民地の可能性を照らす光になるか。老教授フォン・ノルドマンがステラーカイギュウのこの発見された骨格標本を知らしめる論文を執筆する際、その図版を女性画家のヒルダ・オルソンが描き、100年後に博物館の標本管理士ヨン・グレンヴァルが現代の水準で骨格標本を修復し、そしてヘルシンキの自然史博物館に収まるまでの顛末を描く第三部。生き物が初めて発見されて記載される第一部、発見時に標本を作れなかった生き物の標本がどうにか再発見される第二部、学術論文として発表されて博物館のコレクションとして収蔵される第三部。今月行った大阪市立自然史博物館の特別展が標本を軸に学芸員の仕事を紹介した展示で、収集するための道具、標本を収める収蔵庫の再現展示、標本を保存していく技術、研究して発表された論文、博物館の展示作りといった一連の過程が解説されていたため、ちょうど展示内容とリンクしていて読んでいて面白かった。太古の昔の絶滅はあるとしても、直近の出来事として人間が他の生き物を絶滅させる可能性を信じられない時代があったのだなあ。