12月のまとめ

12月に行った展覧会のまとめ

 

大阪府立中央図書館 日本児童文学 戦後80年のあゆみ
大阪府中之島図書館 博覧会の展覧会 Part6 FINAL「いのち輝く未来社会~ワン・ワールド~」
阪神梅田本店 ー青空を想ったー 村上裕二日本画
阪急メンズ大阪 9 stories ep.2
グランフロント大阪 世界のくらしから 展-Vernacular MUJI Items Asia編【大阪】
水平社博物館 西光万吉生の表現
大丸心斎橋店 吉祥縁起ものART展
あべのハルカス近鉄本店 大阪・関西万博報道写真展
あべのハルカス近鉄本店 バルビゾン派絵画展
あべのハルカス近鉄本店 藤田嗣治素描展

 

 

水平社宣言で有名なあの西光万吉の絵画展が開催されると知り、会期の終わりが存外近くに迫っていたため、年内の最終開館日に行ってきた。日本史で全国水平社と関連して学んで活動家としての印象はあったが、画家としてのイメージは無かった。他の場所で作品を目にすることもおそらく無いだろうから、貴重な機会としてどうにか行きたかった展示だ。アクセスカウンターが鎮座する2000年代のホームページのような公式サイト*1に驚きながら、展覧会の会場である水平社博物館へのアクセスを調べていく。徒歩15分かかる最寄り駅のJR掖上駅は1時間に1便だけ電車が来て、最寄りバス停の奈良交通のバスは1~2時間に1便。バスは近鉄御所駅橿原神宮前駅発でどちらも乗車時間は15分ほどかかる。Google Mapを眺めていると御所駅から40分ほど歩けば着くじゃないかと気づき、最寄り駅や最寄りバス停からでも多少歩くのだから、40分程度なら大きく時間ロスにならないだろうと思って御所駅に向かうことにした。

難読地名としてしか知らない奈良県中部の御所市へ昼から出かけて行った。JR御所駅に着いて瓦屋根の木造駅舎に思わず写真を撮った。明治期の建物が創建当初のまま利用されているらしい。遮る物が無くて遠くに見える公園に向けて大通りを歩いていく。駅に接続する大通りだが病院や薬局以外に店舗が少ない。公園に入って窓から図書館が見えるアザレアホールをの前を通って市役所前へ。御所実業高校ラグビー部の垂れ幕が下がっていて、高校ラグビーの文脈では御所の名前を目にすることを初めて知った。橋を渡って住宅街の中をひたすらに歩いていく。途中で踏切の警報機がなぜか設置されている家が現れて驚く。雨模様もあってか人の気配がほとんど感じられず、少し怖い気持ちになりながら、まっすぐまっすぐ歩いてく。突き当りを右折してしばらく歩くと目的地の水平社博物館が目に入ってきた。博物館に入る前に向かいの西光寺と人権ふるさと公園をざっと周った。名前を見た時に察した通り、西光寺は西光万吉の生家だった。

水平社博物館にようやく辿り着き、入館料を払って2階の展示室へ。2022年にリニューアルオープンしたばかりからか展示室がきれいだ。壁面の展示パネルで各セクションの重要な出来事や概念などを写真や文章で解説し、パネル下のテーブルの奥側にそれらについての歴史資料、手前側に関連資料や併せて思考を促すような絵本・マンガといった副教材が配置された展示構成で、全国水平社の歴史と思想を6セクション(そのうち1つは映像展示)で紹介していく。最初のセクションは「人間の尊厳を求めて」という導入展示になっていて、多様な個性の尊重と部落差別について認識することから始まり、残りの5セクションで水平社の創立から展開、戦時中の動向から戦後のトピックまで追っていく。リニューアルに際して追加されたであろう副教材の展示が特徴的で、ワンピース60巻を開いてグレイ・ターミナル焼き討ちのエピソードを取り上げながら、これと似たショッキングな事件がかつて現実でもあったと1922年の別府的ヶ浜焼き打ち事件を紹介するなど、ともすれば歴史の過去として遠く捉えづらい出来事を、絵本や楽曲の歌詞、マンガなど違った所から考えさせようとしていたのが印象に残る。途中の映像展示は全国水平社創立大会にタイムスリップした親子と共に同大会に参加する展示で、座席に座って奥の画面に小さく映る立役者たちが読み上げる設立宣言などを聴くだけながら、熱く読み上げられて耳に入ってくる文言は、ただ文字列をパネルで見るよりもずっと切実さと盛り上がりが感じられて良かった。来館目的である西光万吉の絵画作品展は常設展示の合間にある別の部屋で展開されていて、展示点数は10点ほどながらこういう作品を描くのかと興味深かった。日本画系の人物画が主ながら、ダヴィンチなどを描いた油彩画、鶴を描いたクレパス画などが展示されていた。老僧がこちらを見てにやりとしながら、左下に何かが火にくべられ煙が立つ《毀釈》という作品が印象的。僧侶が仏像や仏画を焼いて暖をとる「丹霞焼仏」という禅画の画題を取りながら、《毀釈》というタイトルになっていて、これは寺の息子ながら差別から「転向」せざるを得なかった西光万吉の想いが現れているという。出自から画家への道が絶たれながらも、晩年のこの作品で信仰を超えてきた果ての自らを描いたのだろうか。

博物館近くの住宅街にある荊冠旗と宣言が刻まれた水平社宣言記念碑を見た後、行きよりも激しくなった雨の中、また40分ほど歩いて御所駅に着いた。一度は行っておきたい博物館だった。会期が延長されて年が明けてからの22日まで西光万吉の特別展は開催されるとのこと。

 

 

12月に読んだ本のまとめ

 

葵せきな『あそびのかんけい』2巻
石川扇『私の怪談師はポンコツ可愛い』
依空まつり『サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと』II~IV
グレゴリー・ケズナジャット『言葉のトランジット』
坂本湾『BOXBOXBOXBOX』
竹町『スパイ教室』14巻

朝宮運河『現代ホラー小説を知るための100冊』
内田貴編著『弁護士不足 日本を支える法的インフラの危機』
樫永真佐夫監修、ミンパクチャン『変わり者たちの秘密基地 国立民族学博物館
金子信久『日本の動物絵画史』
濱野ちひろ『無機的な恋人たち』

 

 

動物性愛者に取材した『聖なるズー』の濱野ちひろの新刊を読んだ。今回の『無機的な恋人たち』は、ラブドールやセックスロボットと愛を交わす人々に取材したノンフィクションだ。等身大人形と結婚したことをカミングアウトしている希少な人物で妻のシドレをはじめ5人の人形と暮らすデイブキャット、等身大人形を芸術品として11体もの彼女らと暮らすジョゼフ、初音ミクと結婚して話題を呼んだ近藤顕彦、ラブドールメーカーのジーレックスとオリエント工業、「人間がラブドールになる」サービスを提供する人間ラブドール製造所など、等身大人形との性愛について取材した成果が8章に渡って綴られている。等身大人形との付き合い方について、ドールそれぞれに細かな個人設定を設けてパートナーとして扱うドールの夫タイプと、ドールにパーソナリティを見出さずあくまでフェティッシュな興味としてドールを集めるドール・フェティシストタイプに大きく二分されるのに始まり、ただラブドール愛好者と言って思い浮かべるより広い世界があった。興味深かったのは、等身大人形であるからこその人間と同じ身体の存在感が重要に感じられるところだった。著者がジョゼフの家の地下で暮らすことになった際に共にあるドールに自然と人間性を感じさせられていく場面。フィクトセクシャルとして初音ミクと結婚して式ではぬいぐるみと共に居たものの、やはり等身大の存在と触れ合いたいという願望。また、ラブドールの話はジェニー・クリーマン『セックスロボットと人造肉』の最初の章でも取り上げられていたが、同書がラブドールの技術進歩に対して人間らしさの消失を危惧していたのに対し、本書に登場する人々の多くが社交面で問題を抱えているように感じられないのも印象的だった。わざわざ取材に応じる人が集まっているのでバイアスはあるが。等身大人形との関わりが性愛のバリエーションとして捉えられるような気もしてくる一冊だった。フィクションの登場人物に恋愛感情などを抱くフィクトセクシャルについて取り上げた本を読みたいがあるのかな。