1月に行った展覧会のまとめ
髙島屋史料館 タカシマヤ クロニクル 百・華・繚・乱 第Ⅰ期:百の時代
国立文楽劇場資料展示室 時代を描いた浮世絵師 三代歌川国貞
大阪中之島美術館 Osaka Directory 11 Supported by RICHARD MILLE 天牛美矢子
国立国際美術館 コレクション2
阪神梅田本店 深堀隆介 作品展 『金魚絵思』 Kingyo eshi
大阪府立中之島図書館 資料でたどる大阪の医学と医療
大阪市中央公会堂 坂倉建築研究所大阪事務所と太田隆信展
心斎橋PARCO ART SHINSAIBASHI
大丸心斎橋店 棟方志功 & 日本画・洋画セレクション
奈良県立美術館 奈良のモダン ~美術をめぐる人々
奈良県立美術館 奈良ゆかりの現代作家展 03 佐竹龍蔵 「いつかのリバーサイド」
奈良市史料保存館
月の終盤に奈良県立美術館に行った。正倉院展や仏教美術の展覧会といった古めの時代の印象が強い奈良国立博物館に対し、奈良県ゆかりの芸術家をはじめとした近代以降の美術展を多く開催している、奈良県庁裏手の比較的地味な美術館だ。奈良駅から大通りを進み、地裁の脇にある広場の小道を抜けて美術館に着く。人が行き交う中に鹿が闊歩するのを目にすると奈良に来たんだなという気持ちが湧いてくる。
今回の展示は「奈良のモダン ~美術をめぐる人々」。かつて存在した奈良の高級旅館・對山楼と、白樺派をはじめとする大正期に奈良に住んだ人々を軸に、近代奈良の文化活動の盛り上がりを見て行く特別展。主に大正期までを扱う對山楼についての前半部と、大正期以降の文化人が暮らした奈良についての後半部からなり、最後の展示室では関連展示として奈良の郷土史研究に携わった水木要太郎が収集した美術品が展示されていた。近代の奈良に集った様々な属性の人々とその関わり合いに焦点が当てられており、個々の美術作品よりは地域文化史として興味深い展示だった。
まずは第1部の對山楼についての展示。ある人物が記された對山楼の宿帳のページを掲げ、その人物に関連する資料や美術作品を紹介していく構成。文化財調査に当たった九鬼隆一、岡倉天心、フェノロサや、文化財の保存修復に当たった関野貞や新納忠之介といった美術行政関係者。古美術研究学習が奨励された東京美術学校で教鞭を執っていた橋本雅邦、川端玉章、寺崎廣業や、東京美術学校卒業前後に訪れた横山大観に六角紫水といった美術教育に関わった美術家、呉服商・髙島屋の当主である飯田新七に、彼のもとで輸出用美術工芸品の下図制作に携わっていた旭玉山と竹内栖鳳。歴史家の黒板勝美、俳人の正岡子規、美術史家の矢代幸雄、建築家の武田五一、哲学者の和辻哲郎。他にも解説パネルで錚々たる名前をいくつも目にした。髙島屋史料館で何度か見た竹内栖鳳の《ビロード友禅壁掛大下絵 波に千鳥》を奈良で見ることができるとは。奈良を訪れた経験に由来する作品という訳ではないが、海外向けの美術工芸品制作に携わっている時期に依頼者の飯田新七も合わせて奈良を訪れていることは、作品制作に何か影響があった可能性を窺わせる。髙島屋史料館で目にした輸出用美術工芸品に、寺院や仏像などいかにも奈良を感じさせる作品があった覚えは無いが。堺市博物館で名前を見た堺県令の税所篤も對山楼の宿泊者に名を連ねていて、そういえば堺県はかつて奈良県の領域も含んでいたなと思い出して納得したが、帰宅後に調べると堺県が大阪府に編入され、大阪府から奈良県が独立した際に県知事となったのが税所篤だった。なるほど「奈良県知事を務めた」と説明されていたのはそういう経緯だったのか。
第2部は大正期に奈良市郊外の高畑周辺に移り住んだ芸術家に焦点を当てる。特に白樺派が築いた「新しき村」の奈良支部、その中でも志賀直哉を中心とした芸術家の交流を取り上げていた。鹿を描いた作品を数多く残し、「鹿の画家」として知られる浜田葆光をはじめ、集った画家の多くが洋画家なのは興味深い。洋行帰りの画家が日本の歴史や風土を描ける場所として、気軽に訪れられる奈良が人気の写生地となったらしい。コラムとして挟まれた、奈良洋画壇の礎を築いた浜田葆光が熊谷守一に日本画を描くように熱心に勧めたエピソードも面白かった。奈良の絵画作品として鹿を描いた作品が近代に何点も存在していて、それを奈良の美術館でちゃんと目にすることができるのが嬉しい。掲示された当時の地図から志賀直哉と浜田葆光がかなり近所に住んでいて、浜田葆光旧蔵の志賀直哉の写真が展示されてたり、志賀邸の常連だった画家・小見寺八山を描いた志賀直哉の短編小説があると知ったり、戦後に志賀直哉が滞在した東大寺観音院での交流から生まれた天平の会というコミュニティができたりと、白樺派というか志賀直哉が奈良の美術界に与えた影響を感じさせられた。
美術展を見た後は少し歩いて奈良市史料保存館へ。豊臣秀長が晩年に大和国を統治していたことを知る。今年の大河ドラマで奈良が盛り上がるのだろうか。この資料館に人が殺到する絵は想像できないが。
1月に読んだ本のまとめ
依空まつり『サイレント・ウィッチ IV -after- 沈黙の魔女の事件簿』
市川沙央『女の子の背骨』
甲田学人『断章のグリム 完全版』1巻
牧野圭祐『遥か遠くのスターライト』
ジェイムズ・モロウ『ヒロシマめざしてのそのそと』
泉貴人『カラー版水族館のひみつ 海洋生物学者が教える水族館のきらめき』
川野芽生『AはアセクシュアルのA 「恋愛」から遠く離れて』
髙島野十郎『髙島野十郎 光と闇、魂の軌跡』
第二次世界大戦末期。原子爆弾の開発に取り組む陸軍に対し、アメリカ海軍は核兵器の代わりに火を吐く巨大トカゲ・ベヒモスを産み出し、その脅威を日本使節団に見せつけることによって降伏を促す計画を進めていた。都市に壊滅的な被害をもたらす制御不能なベヒモスの上陸は避けたい。ベヒモスの着ぐるみが精巧に再現されたミニチュアの日本を破壊する様を見せ、日本の外交団の考えを降伏に傾けさせよう。B級怪獣映画で数々のモンスターを演じてきた俳優のシムズ・ソーリーは、戦争を終わらせる役割を担うその着ぐるみのスーツアクターという栄誉ある役に挑む。
荒唐無稽な設定と魅力的な題名に惹かれて手に取ったジェイムズ・モロウ『ヒロシマめざしてのそのそと』が、ぐいぐい読み進められて面白かった。海から現れた怪獣が都市を荒らしまわる姿に、『シムシティ』で怪獣が現れて街をぶち壊していた映像を思い出した。イグアナを改良してあまりにあっさりと怪獣が爆誕していたり、ミニチュア都市の破壊を見せてそれで信じることを疑っていなかったりと設定のツッコミどころから笑ったが、このバカげた作戦が戦争終結という深刻な問題と結びついて、それに向かって本気で着ぐるみでの歩行訓練や予行演習に励んでいく姿がまた面白かった。作戦は成功するのか?戦後に関係者はどう過ごしたか?ソーリーの回想録という形で物語が進んで行き、最後には強い反核姿勢が示される。2009年に刊行された作品が2011年にSFマガジン誌上で邦訳が連載され、昨年2025年に単行本としてようやく刊行された。戦後80年を迎えた年に、第二次大戦の裏側の映画人らの哀愁溢れる奮闘を描いた本作が日本で刊行されたことを考える。訳者あとがきによると、作者の邦訳された作品は本作以外に聖書を再解釈した短編しか無いらしい。他の作品が刊行されたら読んでみたい。




