8月のまとめ

8月に行った展覧会のまとめ

 

梅田サウスホール スマイルフェス2024 大阪
寝屋川市埋蔵文化財資料館 縄文時代体感!―讃良川遺跡出土の遺物をとおして―
四條畷市立歴史民俗資料館    
大東市立歴史民俗資料館 新田会所をとりまくヒトとモノ~平野屋新田会所から~
柏原市立歴史資料館 江戸時代の列島改造と国分村-稲垣重綱没後370年-
大阪府中之島図書館 1/300のたくらみ 景観模型の世界
阪神梅田本店 Kou画集出版記念イラスト展「赫」OSAKA
阪神梅田本店 第3回 イラスト甲子園 2024
阪神梅田本店 potg作品集出版記念イラスト展「日影」OSAKA
阪急うめだ本店 小川貴一郎展“GURUGURU - eye am watching you - ”
津波・高潮ステーション    
大阪府江之子島文化芸術創造センター ~音楽でたどる大阪府の美術コレクション~20世紀のイメージとサウンド2

 

 

フィギュア展示イベントのスマイルフェスに始まり、大阪府自治体の郷土資料館に防災教育施設の津波・高潮ステーションと、今まで行ったことの無かった場所を何ヶ所も周る月だった。お盆の墓参りをした日には、大阪府でも北東部にはあまり行ったことが無いから行ってみるかと思い立ち、午後から寝屋川市四条畷市大東市の資料館を巡った。あまり利用したことのないJRの学研都市線に乗ってまずは寝屋川公園駅へ。埋蔵文化財資料館は駅を出て横断歩道を渡ってすぐのマンションの1階に入っていた。こういう場所に資料館が入っているのは初めて見たかもしれない。

入って右側の壁側から奥にかけ、寝屋川市から発掘された石器や土器などの考古資料が時代ごとに展示された常設展示があり、入ってすぐの所では企画展として讃良川遺跡の発掘資料が展示されていた。サメの歯の装飾品が展示されており、今では内陸部にある寝屋川市にまで縄文期には海が迫っていたことに驚いた。土地勘は無いし縄文時代にも詳しくないので、職員の方が熱心に展示を解説してくれて非常にありがたかった。歩いて行ける場所にある史跡を紹介してもらって地図をいただいたので行ってみることに。

資料館でいただいた地図。地図をよく見ていれば迷わなかったはずが……。

駅前に戻って地図を見ながら歩き出す。所々にあった案内板には鉢かづき姫がモチーフのキャラがあしらわれていて、鉢かづき姫が寝屋川市の民話だと知る。地図の下の方にある帰り道から直接史跡を目指すのは上り坂が多くて厳しいと聞いたので、概ね地図の順路通りに進んで行く。途中の住宅地で少し道がわからなくなるも、明光寺の雷神石を見て休憩所を過ぎ、目的地目前の打上神社になんとか辿り着いた。鳥居と鳥居の脇の山道を見て、神社の脇にある坂道の先に史跡マークがあるなと地図を見て、どっちだろうと少し迷って鳥居脇の道を歩き出す。そろそろ目的地に着くかなと思いながら歩いていたら、左側に住宅が見え、間違った道に進んだことにようやく気づいた。引き返して鳥居をくぐって歩くこと数分、炎天下で汗だくになりながら目的地の石宝殿にやっと到着。地図をずっと90度傾けて見ていたため、オレンジ色で囲われた石宝殿周辺図が一切目に入っておらず、ちゃんと「鳥居をくぐる」と記されていたのに気づかなかった。国指定史跡の石宝殿は石を積み上げた横口式石槨という古墳で、底石と蓋石が当時の状態のまま現在も同じ場所にあるのはここが唯一らしい。暑い中で歩き続けた疲労感が強すぎて、史跡と対面しても特に感慨も無く写真を撮って駅まで戻った。資料館からの最短ルートで無くても上り坂は多いので、天候が厳しい時は無理して行かない方がいい。

2駅南に下って四条畷駅。東出口を出ると四条畷学園の文字が目に飛び込んできた。歴史民俗資料館までに歩いた大きな道路は、歩行者スペースや歩道の無い中で車がそこそこ走ってきて少し怖かった。資料館は歴史資料の展示スペースが一室と民具などの展示スペースが一室の構成で、涼んでいってくださいという職員の方の言葉に甘えて休憩してから展示を一周した。日本最古とされるキリシタン墓碑が展示されていたのが印象深い。四条畷まで折角来たので駅周辺を少し歩いていたら、飲食店の店先に謎のサンタクロースのオブジェがあるのをいくつも見かけた。絵本作家の谷口智則が代表作『100にんのサンタクロース』から町のシンボルとなる物を作ろうと始めたプロジェクトらしい。あまりにも暑い日々をどうにか変えるようなプレゼントが欲しい。

1駅下って野崎駅。大阪桐蔭高校の最寄り駅である。歴史民俗資料館までの徒歩10分の道のりの途中でスーパーとドラッグストアがあり、ほぼ尽きかけていた手持ちの飲み物を補充した。資料館の入る建物は旧四条小学校を活用しており、資料館と図書館が入っているほか、体育館とグラウンドが併設されている。近世までの地元の資料を展示した常設展示室の階と、企画展示室のある階に分かれており、展示スペースの広さや綺麗さはこの日訪れた館の中で一番だった。企画展は江戸期の新田開発の際にその経営や管理にあたった新田会所の資料の展示。ここでも四条畷市の資料館でも飯盛山に関する展示を常設展示で目にし、この辺り一帯での三好長慶の存在の大きさを感じた。

寝屋川のさらに先で今回は行くことを見送った交野市は、星のブランコという木床板の吊り橋があるので、駅から遠くて諦めた歴史民俗資料展示室ともどもいつか行ってみたい。まだ行ったことのない能勢町はアスレチックでしか知らないが、いつか行く日は来るだろうか。

 

 

8月に読んだ本のまとめ

 

河﨑秋子『愚か者の石』
坂崎かおる『海岸通り』
向坂くじら『いなくなくならなくならないで』
駿馬京『あんたで日常を彩りたい』
宮澤伊織『裏世界ピクニック』9巻

阿部芳郎編著『縄文時代を解き明かす 考古学の新たな挑戦』 
オラシオ『図書館ウォーカー2 旅のついでに図書館へ』
笠井亮平『インドの食卓 そこに「カレー」はない』
電通PRコンサルティング『企業ミュージアムへようこそ PR資産としての魅力と可能性』上巻
室橋裕和『カレー移民の謎 日本を制覇する「インネパ」』

ペーター・ヴァン・デン・エンデ『旅する小舟』
エドワード・ゴーリー 『青い煮凝り』

 

 

今月はインド料理に関する新書を2冊読んだ。一冊目は南インド研究者の笠井亮平による『インドの食卓』。「そこに「カレー」はない」という副題の通り、インド料理といえばカレーというイメージを解きほぐし、多彩な地域料理から国際化の中での現代料理まで、インド料理の多様さを描き出した一冊。『南海寄帰内法伝』での仏教僧の食事やバーブルの食べ物についての感想といった歴史的な話から始まり、インド料理イメージの代名詞と言えるタンドリーチキンやバターチキンはモーティー・マハルというレストランの発明である話や辛くないインド料理の話、ベジメニューの話にインド中華料理の話などが展開され、最後は日本におけるインド料理の話で終わる。水にクミンシードを混ぜてスパイスを加えた黄緑色のドリンクのジャルジーラや、インド中華を代表するという味付けのシェズワン(中華の四川)などは、全然知らないインド料理だった。最後の章ではいわゆるインネパ系に限らない、インドの諸地域の料理を味わえるお店が挙げられている。港町マンガロールの料理を専門としてスパイスのきいた魚介料理を提供する有楽町のバンゲラズキッチン、祖師ヶ谷大蔵のチェスティナード料理店スリマンガラム、「ナンはありません」という貼り紙を出す町屋のベンガル料理店プージャー、原宿のゴア料理店viva goa indian cafe。一回ぐらいは色々味わってみたい。

もう一冊はアジア専門ジャーナリストの室橋裕和による『カレー移民の謎』。こちらは日本におけるインド料理店、その中でも「インネパ」と称されるネパール人経営のインド料理店について取材した一冊。なぜネパール人がインド料理店を出しているのか、なぜここまでインネパ系のインド料理店が増えたのか、インド料理店を出すネパール人たちはどのような暮らしをしているのかといった疑問に対し、当事者たちへの取材からその実態を浮かび上がらせていく。農業と観光業しか産業が無くて出稼ぎ国家となっているネパールからやってきた人々が、金を稼ぐためにインド料理店に勤めて数年で独立していき、売れる物として元の店と同じようなコピーメニューで新たな店を開いていく。店を運営するネパール人の子供たちの教育面の苦しみが描かれていたのが心に残る。

7月のまとめ

7月に行った展覧会のまとめ

 

京都工芸繊維大学美術工芸資料館 博覧会展―博覧会を楽しむ20のエピソード
大谷大学博物館 教科書の素材
中信美術館 伊部京子展 和紙物語
京都文化博物館 日本の巨大ロボット群像−鉄人28号ガンダム、ロボットアニメの浪漫−
京都文化博物館 祇園祭山鉾巡行の歴史と文化
京都文化博物館 天平の都 恭仁宮 最新の発掘調査成果から
芦屋市立美術博物館 創立100周年記念 信濃橋洋画研究所―大阪にひとつ美術の花が咲く―
芦屋市立美術博物館 令和5年度芦屋市内遺跡発掘調査速報展
芦屋市谷崎潤一郎記念館 文豪の愛着~谷崎が愛した小物たち~
芦屋市谷崎潤一郎記念館 林理恵 陶展~蓮のある風景~
兵庫県立美術館 描く人、安彦良和
兵庫県立美術館 コレクション展Ⅰ
京都府立京都学・歴彩館 スポットライト-今、ミュージアムが光を当てたい逸品展-
千總ギャラリー ためつすがめつ屏風
千總ギャラリー あなたと絵の話、交差点 (The only thing I did)
建仁寺 生誕100年記念 小泉淳作
京都蔦屋書店 橋爪悠也個展「LISTEN TO THE SONG OF COLORS -色の歌を聴け-」
京都蔦屋書店 X Beyond O2O2V
京都蔦屋書店 小澤香奈子個展「しろくゆらす」
京都蔦屋書店 隗楠個展「Exploring」
京都蔦屋書店 粂原愛個展「静寂の聲」
京都蔦屋書店 小島拓朗個展「evokes」
国立文楽劇場資料展示室 文楽で学ぶ なまず西遊記
髙島屋史料館 富岡鉄斎「贈君百扇」ー君に百扇を贈るー
大阪中之島美術館 滑らかなオントロジーと共鳴するオブジェクト:物化する計算機自然・微分可能存在論における密教世界
大阪大学中之島芸術センター 天然表現「投錨するアート」展
阪神梅田本店 楽園~Paradise Garden
阪神梅田本店 ~高精彩で魅せるイラスト展~ エール!イラストレーターズ 2024 OSAKA ステージⅡ

 

 

告知されてからずっと楽しみにしていた巨大ロボット群像展に行った。昨年9月の福岡市美術館から横須賀美術館高松市美術館と巡回し、ようやく関西の京都文化博物館へ回って来た。京都工芸繊維大学の博覧会展に行きたかったので、京都市営地下鉄の一日乗車券を有効活用できるルートを考え、まず博覧会展に行き、南下しつつ数ヶ所巡って最後に巨大ロボット群像展を見ることに。初めて訪れた中信美術館の道中、たまたま見学日だった京都府庁旧本館で旧議場や旧知事室といった建築を楽しみ、京都文化博物館に辿り着いたのは15時半頃。会期初日で混雑して展示を満足に見られない可能性を危惧していたが、時間帯もあってか困る程には混んでいなくて安心した。

お台場の実物大ガンダムをはじめとする、巨大ロボットを実際に建造したプロジェクトの映像から展示は始まった。最初の展示エリアは鉄人28号のメディアミックス史。原作マンガに始まり、アニメに先駆ける実写ドラマ版、テレビアニメ3作品に劇場アニメに実写映画まで、解説の記された柱が立ち並ぶ。全然世代でも無いのにこの段階で気分は一気に高まり、次のエリアのマジンガーZの詳細な解説パネルを見てわくわくしていた。光子力研究所の断面図にパイルダーオンしてマジンガーZとなる過程、作劇上の合理性の紹介と、マジンガー関係なくロボット作品として説明を読むのが楽しかった。鋼鉄ジーグコン・バトラーV勇者ライディーンゲッターロボと、最初期のロボットアニメ作品の解説が続く。マジンガーレベルに気合が入った解説をされている作品は他に無くて少し残念。ぐるっと回ってスタジオぬえのコーナーへ。ゼロテスターや、有名シリーズとなったマクロスの展示の後、ハインラインSF小説『宇宙の戦士』に登場する機動歩兵のイラストが展示されていた。スタジオぬえ宮武一貴と加藤直之によるこの機動歩兵は、原書に無いパワードスーツのデザインで後のアニメやマンガに大きな影響を与えたらしい。パワードスーツのサイズ感を体感できるちょっとした展示もあり、ただのロボットアニメ列挙に終わらない展示を見られたのは嬉しかった。最初期ロボットアニメ作品が切り開いた想像性と合理性に焦点を当てたエリアの後は、ロボット作品の実際のサイズを体感できる展示が続く。ルパン三世に登場した巨大ロボットのラムダ、ダグラムボトムズザブングルメガゾーン23と、作中ロボットのサイズを再現したパネルが展示され、大きさをある程度イメージできる。数十メートル級のいわゆるスーパーロボットはわからないものの、比較的小さめのロボットは大体これぐらいのサイズかと想像して面白かったが、展示スペースの問題か、立った姿で大きさを実感できる機体があまり無くて残念だった。次は精緻に描かれるようになっていったロボットの内部機構に関する展示。プラモデルやおもちゃが展開されていく中で機体の内部機構を解釈してデザインするようになっていき、アニメでも合体シーンを描く中で内部機構が見せられるようになっていく。トップをねらえ!勇者シリーズの合体シーンをいくつも繋げた映像を鑑賞できるスペースがあり、やはりロボットの合体シーンは良いなと思いつつ、アニメーターの苦労が偲ばれた。

下の階に降りる。この巡回展の目玉である、18mのガンダムが床に描かれ、その大きさを感じられる部屋に来た。元々の展示構成ではスタジオぬえエリアの次にこの部屋が来るはずだったが、会場の都合でそうもいかずに別の階になったらしい。この展示スペースを確保するため、会場の広さを考慮して展示構成をどうにかしなければならないのも大変だ。床のイラストを見せる都合上、デカい部屋が必要な一方で壁側にしか展示を置けないし。見た目のインパクトはあるものの、大きさのイメージはできるそうであまりピンと来なかった。ガンダムの初期設定画からのデザインの変遷と、セルアニメとしていかにリアリティを追求したかの展示を見て、最後にあったのは90年代ロボットアニメのコーナー。現実離れしたデザインながら機体設定が練られ、個性的な物語を紡いだ、ジャイアントロボガオガイガービッグオー、ゲキ・ガンガー3、ダイ・ガードの5作品の展示。ナデシコだ、やっと観たことのある作品が来たと思ったら、作中作のゲキ・ガンガー3の話しかしていなくて笑ってしまった。ジャイアントロボはアニメ映像が流され、実際にロボットが動いて戦っている所を観られたのが良かった。会場の動線など色々な課題はあると思うが、「巨大ロボットとは何か?」というテーマからしても、もっと色々な作品のロボットが動いている場面が見たかったところ。映像カットだけではどうしても限界がある。どの辺りの時代まで展示されているのだろうと思ったら、90年代で終わって消化不良気味なのも少し残念。展示の中で一番新しい作品は2012年公開の『花の詩女 ゴティックメード』か?不満はあるものの、ロボットアニメに関する展示をこれだけ観られたのは間違いなく楽しかった。古典と言える昭和のロボットアニメを観てみたくなった。

 

 

7月に読んだ本のまとめ

 

白鳥士郎りゅうおうのおしごと!』19巻
豊永浩平『月ぬ走いや、馬ぬ走い』
二月公『声優ラジオのウラオモテ』11巻
二月公『声優ラジオのウラオモテ DJCD』
八目迷『ミモザの告白』5巻
原田マハ『板上に咲く』

大澤夏美『ミュージアムと生きていく』
奥野武範『常設展へ行こう!』
国立科学博物館筑波実験植物園編著『植物園へようこそ』
鈴木均『自動車の世界史 T型フォードからEV、自動運転まで』
原田裕規『とるにたらない美術 ラッセン、心霊写真、レンダリング・ポルノ』
藤木和子『「障害」ある人の「きょうだい」としての私』

 

 

学芸員に常設展の魅力を聞いてみた『常設展へ行こう!』が良かった。東京国立博物館に始まり、国内の12の美術館について各館の学芸員が収蔵作品への愛を語っていく。四六判の2段組で数十ページに渡って設立経緯やコレクション方針、オススメ作品が語られ、インタビュー形式なのもあってそこそこの文量ながら楽しく読み進められた。東京の美術館ばかりではなく、青森県立美術館富山県美術館、群馬県立館林美術館など比較的なじみの薄い館のことも知ることができた。著しく混雑する企画展も珍しくない中、結構良い作品をじっくり鑑賞できる常設展にもっと行きたくなった。大阪市立美術館は来年3月まで休館中、国立国際美術館は展示室内整備のためコレクション展はやっておらず、大阪中之島美術館は常設のコレクション展を開催していなくて、大阪府下は鑑賞できる場所があまり無いが。先月読んだ後藤さおり『日本のミュージアムを旅する』も収蔵品に注目して美術館を紹介していく本だった。こちらは少ないページ数ながら日本全国の国立/公立美術館を取り上げていて、浅く広く全国の美術館を知って美術旅気分になれる一冊だった。もっと色んな美術館に行きたい。

6月のまとめ

6月に行った展覧会のまとめ

 

御殿山生涯学習美術センター 「大阪美術学校創立100年記念」 開校記念展
京都市立芸術大学芸術資料館 「日本最初京都画学校」-京都御苑からの出発-
京都市立芸術大学アートスペースk.kaneshiro 源平合戦図屛風ー其の壱 いざ参らん、一の谷の戦いへ!
京都蔦屋書店 コケシスキー個展「時間と積層 -Time and Deposition-」
京都蔦屋書店 熊野海個展「MAGICAL UNIVERSE
京都蔦屋書店 やまなかともろう 個展「金色掻き分け流るる乙女」
京都蔦屋書店 長嶋祐成「川」展
京都蔦屋書店 ミシオ個展「星座と/は違う/手(サースカムスタンス)」
大阪髙島屋 写真家 砺波 周平×HIDA~森の声をきく~
大阪髙島屋 小島久典展 Flumen Temporis~時の河
髙島屋史料館 「人間 栖鳳」 生誕160年 知られざる竹内栖鳳
大丸梅田店 Upcoming Artists
大丸梅田店 岡本太郎コレクション展
阪急うめだ本店 Osaka Art & Design 2024「『阪急×Art Collectors’』アートフェア2024」
阪急うめだ本店 Osaka Art & Design 2024「ヘラルボニーアートコレクション」
心斎橋PARCO ART SHINSAIBASHI
大阪企業家ミュージアム 企業家たちの珠玉の名言とゆかりの品
適塾

 

 

行ったことの無い場所でやや興味の惹かれる展覧会が開催されることを知り、おそらく人生初の京阪電車に乗って枚方市の御殿山まで行ってきた。駅を出て踏切を渡ると緩い上り坂で、少し歩いて生涯学習美術センターはこちらという看板を見つけて左折するとさらなる急坂で、入口に辿り着く頃には息が切れていた。後でアクセス情報を確認したら、急な坂道だけど近道をしたい方向けのルートだったらしい。目的の展覧会は大阪美術学校創立100周年記念展で、施設受付前のちょっとしたギャラリースペースで関係者の写真や絵画作品が展示されていた。恥ずかしながら大阪美術学校は存在すら知らず、設立に中心的な役割を果たした矢野橋村も名前しか知らなくて、ちょっと前に池田市の歴史資料館で矢野橋村展をやっていたなあ、行けばよかったと少し後悔しながら作品を見た。個々の作品よりも、大阪美術学校設立にあたって矢野橋村が述べた言葉の中にあった、「大阪と言ふ處は美術家を殺しこそすれ育てる處ではない」と人々の間で言われるようになり、そう感じた芸術家が大阪から次々に離れて美術畑が荒廃していたという状況に、近年の色々なニュースを思い出して悲しくなった。展示を変えて別会期の展覧会が続くらしい。

京阪電車で京都に向かい七条駅で降りて京都市立芸術大学芸術資料館へ。道中で石清水八幡宮京都競馬場京阪電車の沿線にあること知る。京都競馬場淀駅を通過する時に大きな施設やコースが車窓から見え、昔行った東京競馬場を思い出して気分が盛り上がっていた。京都市芸大では移転記念特別展「京都芸大<はじめて>物語」2期目を鑑賞。今回は美術教育用の絵手本や参考資料に使われた中国絵画などが展示されていた。日本初の公立美術学校として京都府画学校が設立されるに当たり、幸野楳嶺が絵画は図面を描くのに有用で諸産業の基本だと設立意義をアピールしていた所に、当時の美術に対する世間の眼と実学への志向が窺えて面白かった。時代の下った大阪美術学校の設立への思いを読んだ後で見ると、美術というか画家についての社会の見方の変化を感じる。展示を見た後は6階のアートスペースで源平合戦図屏風を見て、京都髙島屋まで歩き、蔦屋書店の展示をぐるっと周って一日が終わった。

 

 

6月に読んだ本のまとめ

 

伊良刹那『海を覗く』
八目迷『小説葬送のフリーレン~前奏~』

青木耕平、加藤有佳織、佐々木楓、里内克巳、日野原慶、藤井光、矢倉喬士、吉田恭子『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』
奥野克巳監修『世界ぐるぐる怪異紀行 どうして”わからないもの”はこわいの?』
尾崎俊介アメリカは自己啓発本でできている ベストセラーからひもとく』
後藤さおり『日本のミュージアムを旅する』
篠田謙一『科博と科学 地球の宝を守る』
谷口功一『日本の水商売 法哲学者、夜の街を歩く』
田豊隆『妻はサバイバー』
町田明広編『幕末維新史への招待』

アイナール・トゥルコウスキィ『おそろし山』

 

 

TLに流れてきた「アメリカ文学・文化について考えるための読書・動画ガイド」を読み、アメリカ文学の最新動向を知りたくて『現代アメリカ文学ポップコーン大盛』を読んだ*1。2020年刊行でここ数年の情勢は当然無いものの、8人の執筆者がそれぞれの関心に沿って割と好きに近年の作品を紹介していく本で、最後には柴田元幸も交えた座談会が収録されている。必ずしも小説ばかりではなく、ドラマやグラフィックノベル、作家ワークショップの体験談に文芸翻訳と射程は幅広く、新たな作品を知るだけにとどまらず、今のアメリカ社会で問題とされ議論されていることが伝わってきて、どの記事も面白かった。インドで起きた2つの爆弾テロ事件を下敷きに、生き残ったテロ被害者がテロ幇助者に、子を失ったリベラルな母親が死刑支持者に変わるなど、テロが人をいかに変えていくかを描いたカラン・マハジャン『小さな爆弾たちの連合』。順調な来歴の人生を歩むも、既に確定した絶望から「よくなる」ことを期待せず、最後まで救いの訪れない男を描くハニャ・ヤナギハラ『あるささやかな人生』。当事者によって執筆され、トランス女性の直面する生活上の問題が散りばめられたメレディス・ルッソ『If I Was Your Girl』。他にも興味が湧いて読みたくなった小説はあったが、挙げた3作品も含めて邦訳が刊行されていない物が結構あった。英語ででもどうにか読みたいなと思ったものの、ハニャ・ヤナギハラの『A Little Life』(上記の『あるささやかな人生』)が700ページ超えなのを知って尻込みしてしまった。とりあえず、同作者で邦訳のある『森の人々』を読むつもりだ。

*1:冨塚亮平researchmap
https://researchmap.jp/multidatabases/multidatabase_contents/detail/295568/3f01747097d167382db05220a8cbfaf9?frame_id=656319
「これから人文科学について学ぶ人のための読書・動画ガイド」も公開されている

5月のまとめ

5月に行った展覧会のまとめ

 

奈良県立美術館 小川晴暘と飛鳥園 100年の旅
大阪大谷大学博物館 大とんだばやし展―埋文調査の歩みとこれから―
大阪髙島屋 伊藤彩展「ゲノムの詩-Collaboration with Fujimura Family」
大阪髙島屋 工芸の美-第53回日本伝統工芸近畿展出品者選抜展-
大阪髙島屋 -光彩讃美-並木秀俊展
大阪府中之島図書館 ようこそ!世界の紙芝居の森へ~We love KAMISHIBAI!
阪神梅田本店 中村エイト画集出版記念イラスト展「EVOLUTION」OSAKA
阪神梅田本店 チェリ子初個展「bouquet」
大丸梅田店 ブレイク前夜展2024 in OSAKA
グランフロント大阪 Voices of the Lake
関西大学博物館 花開く大阪の文化
阪神梅田本店 山上學陶展-帆-
阪神梅田本店 やすらぎの沖縄 北島清隆写真展
阪神梅田本店 オキナワアート&ファッション「イチグスクモード」池城安武作品展
阪神梅田本店 岡田章子水彩画展-珊瑚礁の海へ-
あべのハルカス美術館 徳川美術館展 尾張徳川家の至宝
髙島屋史料館 「人間 栖鳳」 生誕160年 知られざる竹内栖鳳
大阪大学中之島芸術センター 糸川燿史写真展「回顧録
大阪歴史博物館 ―わたしが難波橋のライオン像をつくりました!!― なにわの彫刻家・ 天岡均一没後100年記念展
大阪歴史博物館 おおさか街あるき―キタ・ミナミ―

 

 

月の最後の日曜日、大阪歴史博物館へ行った。エンジョイエコカードの割引料金でチケットを購入し、まずは特集展示の天岡均一展へ。難波橋のライオン像の製作者である彫刻家を取り上げた展示で、天岡均一の来歴から始まり、彫刻作品の展示、彼の妻で近代大阪の女性工芸家である蕗香に関する展示、ライオン像の話と来て、俳人としての一面が窺える資料の展示で終わる。中之島の東側は中央公会堂や東洋陶磁美術館までしか行かないためライオン像を見た記憶が薄く、前提となるライオン像にピンと来なかったが動物彫刻を楽しんだ。イケフェスで大阪取引所に行った時に見たと思うが。芸術家としての顔が見えるエピソードも随所にあり、中之島にあった豊国神社の豊臣秀吉像を拙くて大阪の恥だと発憤して乗馬像を作った話は面白かった。今は大阪城で目にするあの豊臣秀吉像だろう。

2つ下の階に降りて今回の目的である「おおさか街あるき」展へ。大阪の繁華街であるキタとミナミの歴史資料を街歩きするように見ていく展示。街歩きマップを配布し、それぞれの資料の解説文では最寄り駅や次の地点までの距離が記され、展示を見た後に実際に街中を歩いて回れるようになっている。常設展では大阪の歴史という大枠で話が進むため、企画展として個々のスポットを取り上げてくれるのは、より歴史に馴染みやすくて良い。キタとミナミの類似点と相違点の紹介、キタ、街歩きアイテム、ミナミ、大阪歴博周辺の街歩きの大きく5つにセクションが分かれていて、前3つと後ろ2つでそれぞれ展示室が分かれている。キタとミナミで展示室が変わることで、展示物から感じる街の空気が変わるのが印象的だった。どちらも、江戸期まではその先に何も無い街外れにあって、明治期にかけて周辺を街中に取り込んでいき、明治の終わりに大火にあって街の姿が一変する。今では梅田地域として捉えてしまうお初天神が、地図を見ると村外れだったことを知り、なるほど曾根崎心中の頃は静かに最期を迎えるような場所だったのだなと納得した。展示全体としては、そこに人がいるかのような生人形が衝撃的で、芸術や芸能に関する資料が多かったミナミが見ていて面白かった。ぐるっと周って最後の大阪歴史博物館周辺街歩きのセクションで、ある建造物の解説文が目に留まった。大阪歴史博物館の窓からも見える教育塔。なぜ教育塔と呼ぶのだろうとずっと疑問に思っていたが、室戸台風で犠牲となった教育関係者や児童の慰霊を目的に建てられたことをようやく知った。普段は行きたい展覧会から展示施設を鉄道で周るルートを組んで移動しているが、歩き回るルートを組んでもいいかもしれないと思えた一日だった。

 

 

5月に読んだ本のまとめ

 

アサウラリコリス・リコイル Recovery days』
すめらぎひよこ『我が焔炎にひれ伏せ世界』2巻
ガブリエル・ゼヴィン『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』
二月公『声優ラジオのウラオモテ』10巻
村雲菜月『コレクターズ・ハイ』

大木毅『歴史・戦史・現代史 実証主義に依拠して』
島村恭則編『現代民俗学入門 身近な風習の秘密を解き明かす』
宮田珠己『路上のセンス・オブ・ワンダーと遥かなるそこらへんの旅』
明治大学商学部編『アート・オブ・物流 進化する物流世界の実像』
山口進『昆虫カメラマン、秘境食を味わう 人は何を食べてきたか』
山本輝太郎、石川幹人『科学がつきとめた疑似科学 「科学リテラシー」で賢く生き延びる』

 

 

葛飾北斎の波をバックに、タイトルと作者名と訳者名がゲームのメッセージウィンドウのように配置されている。5行に渡って連なるタイトルはドット文字になっていて、よりゲームらしさが際立つ。そんな表紙デザインに惹かれ、月の後半で一気に読んだ『トゥモロー・アンド・トゥモロー・アンド・トゥモロー』が面白かった。幼い頃に病院で出会ってゲームを通して仲良くなった2人が大学生になって再会し、ゲームを共同開発して大きな成功を収めるも、行き違いや対立から溝が深まっていき……というあらすじ。90年代に『イチゴ』というゲームを大ヒットさせる所から物語が転がっていくが、作中で生まれるゲームの他にも現実で発売されたゲームも数多く登場し、青春時代を過ごしたゲームの一時代史としても興味深かった。アメリカが舞台なので知らないゲームも結構あったが。悲劇的な物語があって販促で前に出る共同開発者のため、影が薄くなって自らの作品と世間的に評価されないもう一人の開発者。クリエイターとしてぶつかりあう2人の間を取り持ち、諸事うまく回していくプロデューサーの大事さ。身体障害と人種とジェンダーが異なり重なる人々の視点と思想の違い。そして、冒頭に掲げられるエミリー・ディキンソンの詩「愛こそすべて」。長編ながら読みやすく、色々感じては書けずに忘れてしまったことも多い。読み終えたらゲームをガッツリ時間を取ってプレイしたくなった。

4月のまとめ

4月に行った展覧会のまとめ

 

移住ミュージアム    
神戸市立博物館 Colorful JAPAN―幕末・明治手彩色写真への旅
KOBEとんぼ玉ミュージアム Art Marble 2024
京都国立博物館 特別展 雪舟伝説―「画聖」の誕生―
京都市立芸術大学芸術資料館 カイセン始動ス!−京都市立絵画専門学校に集いし若き才能—
京都市立芸術大学アートスペースk.kaneshiro 美工・絵専時代の上村松篁ー若き日の異色作をめぐって
京都工芸繊維大学美術工芸資料館 受け継がれるイメージ-源氏物語の世界
京都工芸繊維大学美術工芸資料館 建築アーカイブズをひらく Vol. 1―愛仁建築事務所資料
京都工芸繊維大学美術工芸資料館 建築設計実習IV 歴史グループ アーカイブズ課題 2023年度成果展:比叡山回転展望閣
京都工芸繊維大学美術工芸資料館 フランスポスター展-ロートレックからムルロ工房、サヴィニャックまで
大谷大学博物館    大谷大学のあゆみ 赤レンガの学舎
ハリス理化学館同志社ギャラリー 同志社大学同志社社史資料センター開設20周年「同志社の家計簿―同志社のあゆみを支えた財政の記録―」
京都市考古資料館 紫式部平安京-地中からのものがたり-
千總ギャラリー 変化が導く —検討のち、変更
京都芸術センター 林智子個展「そして、世界は泥である」
竹尾淀屋橋見本帖 マンガアートをつつむ Shueisha Manga-Art Heritage×紙×加工
阪神梅田本店 高田明美
阪神梅田本店 とけし作品展「凛々しくて儚い」
阪神梅田本店 chikame 初個展「miss you」

 

 

京都国立博物館へ朝から雪舟展を見に行った日、京都市営地下鉄1日乗車券を有効利用できないかと考え、大学ミュージアム巡りをすることにした。初乗り運賃が220円で1日券は800円なので、数回下車すれば元が取れる。

まずは京都国立博物館から歩いて京都市立芸術大学芸術資料館へ。京都駅近くに大学が移転した記念の特別展が開催中で、同大学の前身校で学んだ芸術家たちの卒業作が今年4月から来年2月にかけて4期に分けて展示される。第1期の今回は村上華岳、土田麦僊、堂本印象など名前をたまに見る画家の初期作を鑑賞したが、目を奪われたのは岡本神草の《口紅》だった。他と違って明らかに見覚えがある作品で、卒業作だったのかと驚く。早世したという説明文を読み、卒業作が代表作として今に伝わっていることに悲しさを覚えた。展示の一番最後に、数ヶ月前に奈良県美に展覧会を見に行った不染鉄の作品があり、日本の原風景のような絵画に再会できたのは嬉しかった。

京都駅まで歩いて地下鉄で一気に北上し、京都工芸繊維大学の資料館へ。1日券を使おうと思った理由の一つは、ここで開催中の展示を見たかったから。松ヶ崎駅を出ると樹々の緑が目に入ってきて、中心部から離れたのを実感する。この辺で曲がれば着くだろうと雑に歩いたために小さな入口からキャンパスに入ることになり、美術工芸資料館を少し探すことになった。200円を払って入館すると、ホールの壁に時代を感じるポスターが何枚も展示されており、中央の空間に建築図面が展示されていた。入って右手の部屋の源氏物語の展示、ホールの設計図面の展示、奥の部屋の建築設計実習展を見て2階へ。メインの展示に辿り着くまででも盛り沢山だ。ようやく主目的のフランスポスター展を鑑賞。ロートレックミュシャなどの華やかなポスターから、ピカソシャガールなど画家自身が手掛けた展覧会ポスター、ロジェ・ブゾンブのカラフルなエールフランスのポスター、サヴィニャックのユーモアな発想の広告ポスターまで。華やかで美しい方向から、見て面白い方向へのポスターデザインの変遷を感じる。無料で貰える過去の展示パンフレットが受付の棚に並んでいたので、興味を引かれた物と資料として手元に持っておきたい物を7冊貰った。結構重くて移動しまくる一日には邪魔だが、折角ここまで来たのだから貰える物は貰っておきたい。

南下して北大路駅。地図アプリを見ながら大谷大学を探して歩き出したが、違う方向へ進んだと気づいて駅に戻ったところで、駅出口の真向かいの建物の上部に大谷大学の文字が見えた。博物館は横断歩道を渡ってすぐの建物内にあった。かつて大谷大学の本館だった赤レンガの建物と大谷大学の建学精神に関する展示。初めて来た大学で建物に思い入れが無いのでざっと見た。北京版チベット大蔵経チベット語が綴られた横長の紙のレイアウトを見て、なるほど縦書きの日本の経文と違って横長の紙と箱で縦開きになるのかと面白く感じた。

また2駅進んで今出川駅。ハリス理化学館同志社ギャラリーの展示を見る。同志社の財政記録という来る前はあまり興味の無かった展示だが、アメリカからの寄付が財政の大部分を占めていた初期の同志社は、外国資本が流入し外国の影響力が及ぶ学校として政府に警戒されており、構造改革の果てに徴兵猶予などの特典をなんとか獲得したという歴史は興味深かった。その後は少し歩いて京都市考古資料館へ。ここも1日乗車券を使った理由の一つ。特別展は紫式部藤原氏に関する遺跡の発掘資料から平安時代の貴族の暮らしを解説した展示で、『源氏物語』に登場する邸宅はこの辺りで……と同作と絡めた説明書きが印象的だった。2階の常設展示は京都の歴史を考古資料から見る展示だったが、朝から方々を巡った疲れであまりじっくり見られず。

その後は烏丸御池駅から歩いて千總ギャラリーと京都芸術センターの展示を見て、ポケモンセンターと本屋に立ち寄って帰りの電車に乗った。まだまだ行けていない大学ミュージアムが京都にはある。いつか行ってみたい。

 

 

4月に読んだ本のまとめ

 

九段理江『東京都同情塔』
竹町『スパイ教室短編集』5巻
砥上裕將『一線の湖』
三木三奈『アイスネルワイゼン』
ベンハミン・ラバトゥッツ『恐るべき緑』

加藤文元、岩井圭也、上野雄文、川上量生竹内薫『人と数学のあいだ』
河野真太郎『正義はどこへ行くのか 映画・アニメで読み解く「ヒーロー」』
児玉真美『安楽死が合法の国で起こっていること』
山梨俊夫『カラー版 美術の愉しみ方 「好きを見つける」から「判る判らない」まで』

 

 

近畿圏在住で18歳以上なら登録できると知り、大阪公立大学図書館の一般利用者登録をした。2年間有効で2000円。住吉区の杉本図書館と堺市の中百舌鳥図書館で館内資料を閲覧・複写できるほか、データベース閲覧と各館5冊まで資料の貸出ができる。母校の大学図書館には卒業生用入館証でたまに行ったが、館内資料の閲覧と複写しかできなかったので、資料を借りられるのにはかなり驚いた。研究者でもない人間が10冊も本を借りられるのはありがたい。どちらの館も行ったが、蔵書数200万冊を超え、地上10階・地下3階の杉本図書館はうろうろするだけでもすごさを感じた。登録した以上は2年間有効利用したい。

月末に読んだ『恐るべき緑』が良かった。科学の常識を塗り替えた名だたる科学者たちを描いた短編小説集。ハーバー、シュヴァルツシルト、グロタンディーク、ハイゼンベルク、ド・ブロイ、シュレーディンガーと、有名科学者の業績や発見の裏にあるエピソードが苦悩や執念と共に綴られていく。科学者の熱情と偏執さにより科学の世界認識が変わる衝撃が描かれる一方で、合間で2つの世界大戦が落とした影が描かれ、その人間の業が有名人の評伝ではない最後の一編に繋がっていく。ナチス高官の自殺に青酸カリが用いられた話から始め、大戦末期のドイツでの自殺の波、強制収容所での毒物、青色顔料の歴史、チューリングの自殺、第一次大戦のイーペル、そしてドイツのフリッツ・ハーバーで話が終わる最初の一編「プルシアン・ブルー」が、話がどんどん別の話に繋がって展開していって面白かった。科学知識がある状態で読むともっと面白かっただろうなと感じてしまうのが悲しい。

3月のまとめ

3月に行った展覧会のまとめ

 

髙島屋史料館 「人間 栖鳳」 生誕160年 知られざる竹内栖鳳
大阪大学中之島芸術センター 服部良一笠置シヅ子:花開く大阪音曲
大阪くらしの今昔館 文様彩集
阪神梅田本店 日本の絵画- 過去・現在・未来 -
阪神梅田本店 優子鈴 大阪初個展「水の都」~水彩で描く美少女原画~
阪神梅田本店 原田ちあき作品集出版記念「私はかわいい、絶対かわいい。」OSAKA
大阪市立自然史博物館 自然史のイラストレーション ~描いて伝える・描いて楽しむ~
四天王寺宝物館 四季折々の四天王寺~絵画にみる近現代の彩り~
尼崎市立歴史博物館 尼崎市指定文化財の精華
尼崎市立歴史博物館 わがまち誇りの指定文化財写真展
尼崎市総合文化センター 開室10周年記念 白髪一雄記念室のあゆみ
狭山池博物館 土木遺産展―石をはこぶ 瀬戸内の石の島から大阪へ―
堺市博物館 芝辻理右衛門家文書と堺の鉄炮鍛冶
ジュンク堂書店大阪本店 浪花百景×未来景  アートでつむぐOSAKA展
阪神梅田本店 阪神タイガース2023日本一記念 成瀬國晴個展“さあ みんなで今季も”
グランフロント大阪 ミュオグラフィアート展2024
京都dddギャラリー 永原康史—時間のなかだち:デザインとNFTの邂逅
千總ギャラリー 舞台は御所解
千總ギャラリー slide/shift
京都文化博物館 コスチュームジュエリー 美の変革者たち シャネル、ディオール、スキャパレッリ 小瀧千佐子コレクションより
京都文化博物館 雛人形名品展
京都文化博物館 紫式部と『源氏物語
京都蔦屋書店 山口芳水個展「脆 MOROI HOUSUI YAMAGUCHI exhibition」
京都蔦屋書店 grid3-biscuit gallery 3rd Anniversary Exhibition

 

 

市役所に松原市のマンホールカードを貰いに行くのとあわせ、近鉄線で大阪市立自然史博物館の自然史のイラストレーション展を見に行った。市役所入口の横断幕で初めて知ったが、東京五輪金メダリストの西矢椛は松原市の出身らしい。スケボーのまちとして市を挙げてPRをしているようだ。高見ノ里駅から3駅、矢田駅で降りて長居公園を少し歩いて博物館へ。

平日の昼間という時間帯のせいか、展示会場はかなり空いていた。他に展示を周っていたのは3~4組ぐらい。今回の展示は、文献や図鑑などに描かれた生物や自然のイラストレーションにフォーカスした特別展で、書籍に限らず博物館の普及活動の中で作成された資料なども展示する。学術的な正確さを追求しつつ、イラストとしていかに落とし込んでいくのかに興味があるため、会期に余裕はあるものの早めに行っておきたかった。

展示は3部に分かれていて、第1部が日本の本草書や西洋の博物画などカメラが普及する以前の博物図譜、第2部が論文や図鑑に記載された生物の線画やイラスト、第3部が大阪市立自然史博物館の普及教育活動で多くの人が描いたイラストの展示。展示物量は第1部がやや少なめ。写真技術が進歩した現代でイラストが使われ続ける意味は何か?というのが展覧会全体の一つのテーマになっている。特徴をわかりやすく捉えた精緻なイラストをいくつも見ていく中で、写真よりも情報を絞ったイラストの方がわかりやすいことも確かに多そうだなと感じた。複雑な構造を単純化したり、見やすく強調したり。注目すべきポイントから生物種を特定していく絵解き検索は特にそう思う。ただ、イラストレーションの展示を主軸に置いた分だけ写真資料は少なく、イラストと写真を比較できる展示はあまり無かったため、そういう展示があるとイラストの意味がもっとわかりやすかったかもしれない。

興味深かったのは、第2部の最初に取り上げられていた植物標本と論文に記載された線画を比較した展示で、生物種を記載する際にどう情報を取捨選択してイラストとして強調していくかの過程が解説されていたのが面白かった。第3部で科学絵本の絵が専門家の監修でどのように修正されていくかの例が展示されていたのと合わせ、描かれる過程が少しでも見えたのが良かった。博物館で開催された展覧会のポスターとミュージアムグッズの展示を見た後、本展のようなイラスト資料の保管はあまりきちんとなされていないという最後のコメントを読みながら、そうか友の会での観察資料やミュージアムグッズも自然史の資料の一つとも言えるのかとハッとさせられて会場を出た。

 

 

3月に読んだ本のまとめ

 

大田ステファニー歓人『みどりいせき』
小川哲『君が手にするはずだった黄金について』
川野芽生『Blue』
小砂川チト『猿の戴冠式
日比野コレコ『モモ100%』
綿矢りさ『パッキパキ北京』

甲南大学プレミアプロジェクト神戸ガイド編集委員会編『大学的神戸ガイド こだわりの歩き方』
角知行『移民大国アメリカの言語サービス 多言語と〈やさしい英語〉をめぐる運動と政策』
ちいさな美術館の学芸員学芸員しか知らない 美術館が楽しくなる話』
日本史史料研究会編『日本史のまめまめしい知識』第2巻
ミリタリー企画編集部 『日本で見られる保存機・展示機ガイドブック』

 

 

話題になって気になっていた小説を何冊か読んだ。わからない薬物の隠語を調べながら、たまにトリップする口語文体を楽しんだ『みどりいせき』が面白かった。不登校気味の主人公が、小学生の頃にバッテリーを組んでいた後輩と高校で再会し、ふとしたきっかけから彼女の闇バイトに関わるようになっていくというあらすじ。都内で薬物を手渡し販売する高校生達のヤバいが温かな日常。手伝いをずるずる続ける中、ボコボコにされる目に遭っても縁を切ることはできず、どうしようもない終わりへ向かって行く。最初の方は文体に慣れずあまり読み進められなかったが、再会して彼女らが何をやっているのかがわかるようになってからは最後まですんなり読めた。再会して関わろうとして悪の道に進むことになるが、出会わずに今の状況が続いていてもおそらく幸せでは無いのが何とも。

2月のまとめ

2月に行った展覧会のまとめ

 

中之島香雪美術館 館蔵 刀剣コレクション 刀と拵の美
民音音楽博物館西日本館
関西国際文化センター 挿絵でたどる『新・人間革命』名場面展――創価教育編
神戸市立博物館 コレクション大航海 蝦夷発→異国経由→兵庫行
felissimo chocolate museum 甘すぎるドレス展 with me
felissimo chocolate museum アリカワコウヘイ!展 マシューくんのチョコレートパーク
神戸海洋博物館 第22回帆船模型教室作品展
カワサキワールド    
大阪歴史博物館 描かれた人たち-尊崇・憧憬・追憶-
大阪府立中央図書館 アート魚拓の世界
あべのハルカス美術館 円空―旅して、彫って、祈って―
あべのハルカス近鉄本店 宮本大地「ガジェット」
あべのハルカス近鉄本店 アートフェスティバル2024 
大阪中之島美術館 Osaka Directory 6 supported by RICHARD MILLE 木原結花
阪神梅田本店 lack大阪個展「CAFE coffee gentleman」

 

 

月の始め頃に三宮の海側のミュージアムをぐるっと周った。一度だけ神戸市立博物館に行ったのを除くと、神戸市内でも兵庫県立美術館より西に行ったことが無く、中心部の三宮まで訪れたことは無かった。今回は神戸三宮駅を起点に海の方へ進み、民音音楽博物館西日本館、神戸市立博物館、フェリシモチョコレートミュージアム、神戸海洋博物館&カワサキワールドと巡り、閉館時間の都合で行ける場所がほとんど無くなったところで駅へ戻り帰路についた。ちょうど春節だったのに中華街に立ち寄らなかったのは少しもったいなかったかもしれない。

神戸行きの主目的は神戸市立博物館の「コレクション大航海 蝦夷発→異国経由→兵庫行」。海をテーマとしたコレクション展で、古地図から蝦夷、美術品から江戸の異国趣味、考古・歴史資料から兵庫津を紹介する3章に分かれた展示。昼過ぎに入館すると、神戸市のマスコットキャラクター、かもめんが来館していた。折角なので写真を撮るとポーズをしてくれた。中央区のキャラらしい。受付で入館券を購入する際、ずらっと並んだ割引の中にマイナンバーカードでの入館割引が目に付いた。マイナンバーカードで博物館の入館料が安くなるのを初めて見た。

3階に上がってまずは蝦夷地に関する展示を見た。地図を使った前近代の展示ではおなじみのオルテリウスの世界図に始まり、国内外の古地図を展示しながら、蝦夷地という地域が国内外でどのように地図に描かれ認識されてきたかを当時の情勢と共に解説した展示。初めて蝦夷地が地図上で記録されてから、樺太蝦夷地が合体した謎の巨大な土地ととして地図に現れ、探検が進んで樺太蝦夷地が分離されてからも蝦夷地を現在の形のように把握される地図になるまで、蝦夷地に対する世界の認識がこうやって変遷していったのかと興味深かった。すぐ近くの日本国内ですら、渡島半島以北の土地や内部の地名が把握されたのは江戸期に入ってからで、幕府が初めて蝦夷地探検隊を派遣したのは18世紀末だったという。樺太東岸の確かな情報を得たかった高橋景保クルーゼンシュテルンの『世界周航記』を望んだことがシーボルト事件の一因という話を読みながら、正確な地図によって地域をきちんと把握していくことがいかに重要だったかを強く感じた。

2階に降りて江戸時代の異国趣味の展示室へ。当館は池長孟が寄贈した南蛮美術コレクションがあり、教科書でもおなじみの《聖フランシスコ・ザビエル像》を常設展示で専用展示室内で鑑賞できる(本展の後、常設展示ゾーンで複製品を鑑賞した)。2つ目の展示室では、黄檗僧によってもたらされた作品や清の画家を学んだ日本人による絵画、南蛮文化から生まれた工芸品、西洋の画法を受けて新たな方向を開こうとした日本の絵画、ヨーロッパの陶磁の影響を受けた陶磁器、西欧への輸出用に作られた漆工芸品と、江戸時代の美術品と聞いて通常想像する物とは異なる作品に溢れていた。能の楽器の意匠に大胆に鉄砲をあしらった《蒔絵鉄砲文大鼓胴》が印象に残る。異国から伝わった兵器たる鉄砲が日本の能で音を響かせる鼓にデザインされる、その意外さと予想以上のマッチ具合が衝撃的だった。

奥に進んで最後の展示室の兵庫津の展示を見る。一応ざっと目を通したものの、兵庫津についての基本情報や土地勘の無い状態で地図や文書を読んでもあまりピンと来なかった。1階の神戸の歴史展示室を先に見ておけばよかったかもしれない。港としての繁栄は各資料から窺えたが、それを神戸という地域と結びつけて歴史を感じられるほどには至らず。そして、この日は新規開拓するミュージアムを巡ることを優先して1階の歴史展示室をじっくり見る時間は無かった。尻すぼみな感想になったが、この後に周った常設展示室も併せて楽しい博物館体験だった。次回の幕末・明治手彩色写真も面白そうなので、また春にでも訪れたい。

 

 

2月に読んだ本のまとめ

 

竹町『スパイ教室』11巻
永井みみ『ジョニ黒』
八目迷『ミモザの告白』4巻
葉山博子『時の睡蓮を摘みに』
原田マハ『黒い絵』

大阪歴史博物館監修『近代大阪職人図鑑 ものづくりのものがたり』
国立科学博物館編著『〈標本〉の発見 科博コレクションから』
住吉雅美『ルールはそもそもなんのためにあるのか』
樽本英樹『国際社会学・超入門 移民問題から考える社会学
東京造形大学附属美術館監修、藤井匡編『美術館を語る』
日本史史料研究会編『日本史のまめまめしい知識 第1巻』
穂村弘『よくわからないけど、あきらかにすごい人』
ジョナサン・マレシック『なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか バーンアウト文化を終わらせるためにできること』

 

 

𝕏で流れてきた舞台設定などに興味を持って『時の睡蓮を摘みに』を読んだ。日中戦争の開戦直前期にハノイへ渡って大学で学び始めた日本の女学生を軸として、戦争の中で変わりゆくハノイと人間模様を描いた長編小説。フランスの植民地として搾取されている現実がある一方、パリとはまた違った風景の中で華やかに生きる人々。海外展開する日本企業の社員、進駐してくる日本軍、植民地で裕福な暮らしをするフランス人、現地や近隣国の人々。先月読んだ川越宗一の『福音列車』もだが、戦前の植民地時代における国際色の豊かさとその中での階層差を実感する。日仏中の思惑が入り乱れる中で各人の運命は如何に……と展開が気になりつつ、ベトナムという地域の空気を感じながらどんどん読み進められる物語だった。読んだ後、フランス語文献も含めて参考文献が数ページに渡って載っているのに圧倒される。アガサ・クリスティー賞大賞受賞作だが、そこまでミステリ要素を強く感じることは無かった。