9月のまとめ

9月に行った展覧会まとめ

 

造幣博物館 おはなしに登場するお金―昔話から推理小説まで―
阪急うめだ本店 アール・ヌーヴォー魅惑の煌めき ガレ・ドーム ガラスの世界展
阪急うめだ本店 フランスのファッションとアンティークジュエリー~18世紀ロココから1950年代まで~
阪神梅田本店 イセ川ヤスタカ個展「BUSTAR BULLET」
大阪府江之子島文化芸術創造センター 大阪府20世紀美術コレクション展「くりかえしとつみかさね」
堺市博物館 無形文化遺産シリーズ展「アジアの伝統的織物―中国・韓国・日本を中心に―」
堺市博物館 河口慧海 仏教探究の旅
阪急うめだ本店 “JAPAN IS BEAUTIFUL” Artworks by MR BRAINWASH
阪急うめだ本店 長島伊織個展 Reverie
パナソニックミュージアム 松下幸之助『私の行き方 考え方』ゆかりの地をたどる―和佐村から門真まで―
パナソニックミュージアム 夢の実現、テレビジョンが拓いた未来
守口市立図書館郷土資料展示室    
阪神梅田本店 クリパレ2023
阪神梅田本店 阪神梅田本店 過去最大のアートフェア!第3回 OSAKA ART FES HANSHIN
なんばマルイ 今市子原画展 -百鬼夜行抄より 紡がれるふたつの世界-
阪急うめだ本店 ー日本のふるさとを描くー【特別展】川合玉堂 生誕150周年記念
中之島香雪美術館 茶の湯の茶碗 ― その歴史と魅力 ― 
キヤノンギャラリー大阪 西田航写真展「COLOR OF KANSAI」
大阪大学中之島芸術センター 中村恭子日本画作品展「風景の肉体」
大阪市立科学館 プラネタリウムの歴史と大阪
エスパスルイ・ヴィトン大阪 シモン・アンタイ「Folding」

 

 

ずっと行こうとしては行きそびれていたパナソニックミュージアムに行ってきた。大阪近辺の展覧会巡りは大阪メトロの一日乗車券を使うか否かで一日の行き先を決めているが、大阪市内をうろうろしやすいメトロを使いがちで、京阪の駅が最寄りの同館はずっと行けていなかった。Googleマップを眺めていたら谷町線守口駅から歩けば15分ほどで着けることが判明したので、実質メトロ圏内で行きやすいじゃないかと行ってみることにした。

守口駅で降りて大通りを歩き始めてすぐ、ふと横を見ると何やら解説を記した案内板が目に入ったので曲がってみると文禄堤の説明板があった。かつて京街道がここを通っていたらしい。初めて降り立った守口市を数分で通過して目的地に到着。隣に大きな公園はあるし、Panasonicの文字が遠目にも見えるので初めての場所ながら迷わず着けた。

パナソニックミュージアム松下幸之助歴史館とものづくりイズム館の2つの施設から成る。ルートの都合上、ものづくりイズム館の前を先に通りかかったが、正門まで歩いてまずは松下幸之助歴史館へ。敷地にある松下幸之助像の写真を撮っていたら、警備員の方に声を掛けられ、入口脇の案内碑に刻まれた文字が何と書いてあるか読めます?というクイズを出された。答えは「歴史館」という施設そのものの漢字3文字だったが、「歴」の文字だけわからず。「展」みたいな文字なのか。

松下幸之助館は松下幸之助の生涯とそれに関連するパナソニックの歴史、そして彼の思想というか経営哲学をパネルで解説した施設で、パネルとセットで説明に関連した発明品や資料を展示している。入った瞬間に松の木が目に入り、その下に訃報記事や彼の言葉の展示があった。Time誌の訃報記事の「The Man "Undernearth the Pines"」という見出しにしばし考え、ああ「松下」かと納得する。「松下」から展示が始まり、丁稚奉公時代、事業を立ち上げて色々産み出した時代、戦時期、戦後の苦境、海外へと目を向けていく時代、不況の苦しい時期、社会貢献運動を展開していく時代と、濃厚な人生がわかりやすいパネルでまとめられていた。パネルごとに松下幸之助の言葉を記したカードがあって、そこそこの枚数のそれらを収めるケースが販売中だという。松下幸之助が偉人として今なおリスペクトを集める理由が少しわかったような気がしたが、時代の中で勝ち残ることができた成功者という側面も大きいような感じがした。完全週休二日制を日本で初めて導入したのは松下電器だと知る。

その後はものづくりイズム館へ。長いパナソニックの歴史の中で特筆すべき家電製品が展示されているほか、企画展を開催していて、行った時にはテレビの歴史の展示がやっていた。パナソニックに強いこだわりも無ければ、個別の家電製品に強い思い入れも無いが、技術の進歩とか新しいテクノロジーの結晶を見るのは好きで、現在当たり前となっている身の回りの物が産まれるまでにあった年月の積み重ねを感じられて面白かった。個々の製品だけでなく、その製品が発表された時の広告も物によっては展示されていて、広告に時代や売り出した方の工夫が見えたのも面白かった。企画展のテレビの歴史は番組史とかでは無くてハードや技術としての歴史で、高柳健次郎の「イ」から始まって昭和・平成の時代ごとの機能やデザインの変遷を見せ、最後にはテレビが今や様々なビジネスに拡大したことを1枚のパネルで表して終わる。「イ」を画面に表示させてみようという体験展示が、何度かチャレンジするもうまくいかなかったのは少し残念だった。

展示を見た後は30分ほど歩いて大日駅を経由して守口市立図書館へ。郷土資料展示室があるのでそれが目当てだったが、2020年にオープンしたという内部の新しさと電子パネルなどの設備にびっくりしていた。2020年までは大阪府下ながら図書館の無い自治体だったらしい。想像できない暮らしだ。大日駅は谷町線の終点なので、メトロに乗って大阪市内へ戻る。メトロ圏内とはいえ気軽に行きやすい立地では無いが、パナソニックミュージアムの展示もこれからは注目していこう。

 

 

9月に読んだ本まとめ

 

朝依しると『VTuberのエンディング、買い取ります。』
王谷晶『君の六月は凍る』
河﨑秋子『鯨の岬』
黒鍵繭『Vのガワの裏ガワ』1~2巻
高山羽根子ドライブイン・真夜中』
村雲菜月『もぬけの考察』

犬塚元、河野有理、森川輝一『政治学入門 歴史と思想から学ぶ』
オラシオ『図書館ウォーカー 旅のついでに図書館へ』
野口武悟『読書バリアフリーの世界 大活字本と電子書籍の普及と活用』
水嶋英治編『展示の美学』
宮野裕『「ロシア」は、いかにして生まれたか タタールのくびき』
村上靖彦『客観性の落とし穴』

 

 

いつもより小説が多めだが、長編小説は読まなかった。『ドライブイン・真夜中』を手に取ってみて初めて、U-NEXT発のオリジナル小説があることを知る。紙の書籍として刊行されているのは一部らしく、作家のラインナップを見ていると気になる作品もあったので、いつかU-NEXTに課金して読んでみてもいいかもしれない。

図書館に焦点を当てた旅行エッセイとして、『図書館ウォーカー』があまり注目しない施設を取り上げていて面白かった。建物だけではなく、ホテルや温泉と同じ建物だったり、海の見える図書館だったり、変わった属性を持った図書館が多く紹介されている。積極的に観光先で図書館に行こうとは思わないが、時間が空いたりするとついでに寄って地域の色を感じてみたくなった。紹介されている中で行ったことのあるのは堺市立図書館だけだった。

8月のまとめ

8月に行った展覧会まとめ

 

国立民族学博物館
アルフォンス・ミュシャ館 アルフォンス・ムハ モラヴィアン・ドリーム!
旧山中分校 第2回レトロゲーム博物館計画資料展示会
歴史館いずみさの 近代の泉佐野―明治・大正に遺された記録―
宝塚市手塚治虫記念館 テヅカプファイティングユニバース CAPCOM VS. 手塚治虫CHARACTERS
あべのハルカス美術館 超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA
河内長野市立ふるさと歴史学習館 楠木正成伝説
上方浮世絵館 旅する芝居の楽しみ
髙島屋史料館 万博と仏教―オリエンタリズムか、それとも祈りか?
国立国際美術館 コレクション1 80/90/00/10
阪神梅田本店 廣瀬祥子個展 「[Departure]from Unreality:A Slumber's End」
阪神梅田本店 第2回イラスト甲子園
阪神梅田本店 夏目レモン展『螺鈿
阪神梅田本店 ろるあ個展「解」
阪神梅田本店 嵯峨美術短期大学コミックアート展
阪急うめだ本店 ~果てしなき夢の途中~鈴木英人の世界展
阪急うめだ本店 寺井ルイ理「ハイブリッドドリーム“夢は時空を超えて見れるか?”」

 

 

久々にぐるっとパス関西を購入し、ミュシャ館を皮切りに無料/割引のある施設を巡り始めた。スタンプラリーを完走するともれなくプレゼントが当たる企画が開催中なことを知ったが、利用期間は3ヶ月しか無いので今の段階でもう大分厳しい。上方浮世絵館の入館料が500円から700円に値上がりしたため、ぐるっとパスの元を取ること自体は楽になった。

今月はレトロゲームの展示会と超絶技巧展が印象的だった。こんな機会でも無ければ行かない小さな無人駅で降り、古い街道を歩き、辿り着いた廃校では壁一面にゲーム機が並んでいた。フェアチャイルド・チャンネルFのような名前だけ知っている古のゲーム機。昔プレイしたゲームハードとそのソフト。物珍しさと懐かしさで、ひたすらテンションが上がっていた。大阪万博に際して日本の文化としてゲーム博物館を作りたいという開催意図らしい。そういうゲーム史に関するアーカイブや展示施設がオープンするなら是非とも行きたいところだが、流石にもう少し行きやすい場所で開館してほしい。科博の電子楽器の創造展のように、3Dモデルと解説文がオンラインで閲覧できるようになると便利かもしれない。

岐阜県現代陶芸美術館のチラシを見て以来、ずっと行きたかった超絶技巧展は、予想以上に展示数が多く、素材も様々で面白かった。作家によってはメイキングビデオも観ることができたのも良い。一年に及ぶ長い長い時間を経て産み出される作品は、作成過程での細やかなこだわりの積み重ねとして、完成品としての美しさだけでなく執念のような物を感じる。素材としての加工イメージのしやすさもあって、初っ端に展示されていた前原冬樹の木彫がクライマックスに感じてしまったのは嬉しくも残念だった。昔作品を見てから気になっていた、山口英紀や池田晃将の作品をまた目にすることができたのも嬉しかった。

 

 

8月に読んだ本まとめ

 

石田夏穂『黄金比の縁』
市川沙央『ハンチバック』
児玉雨子『##NAME##』
古川真人『ギフトライフ』

川口潤編『心とは何か』
国立歴史民俗博物館監修、「性差の日本史」展示プロジェクト編『新書版性差の日本史』
斎藤環『「自傷的自己愛」の精神分析
周司あきら、高井ゆと里『トランスジェンダー入門』
東北大学日本史研究室編『東北史講義【近世・近現代篇】』
西村祐子『皮革とブランド 変化するファッション倫理』
望月昭秀編『土偶を読むを読む』

 

 

気になっていた話題作をようやくいくつか読んだ。批判対象の『土偶を読む』は手に取ることすらしていないが、『土偶を読むを読む』は今の考古学が何をやっているのかを垣間見ることができて興味深かった。痛快にバッサバッサと切っていく批判パート以上に、対談パートや文化人類学と考古学を比較した論稿が面白かった。科学分析技術の進展により、仮説の部分も大きかった考古学をアップデートしていけるのか。縄文期の社会のことなんかどうやってわかるんだと思っていたが、発掘人骨の分析が進んで仮説を裏付けたり新たに展開したりできる段階に入りつつあることを知る。今まで先史時代にあまり興味を持っていなかったが、発掘された資料について分析して仮説を立てたり検証したりしていく過程が面白く感じたので、何か本を手に取ってみようかな。

7月のまとめ

7月に行った展覧会まとめ

 

和泉市いずみの国歴史館
貝塚市歴史展示館
兵庫県立美術館 出会いと、旅と、人生と。ある画家の肖像 日本近代洋画の巨匠 金山平三と同時代の画家たち
BBプラザ美術館 新収蔵品を核に 東西作家のコンチェルト 特集展示-生誕100年 網谷義郎
神戸文学館 蘇る神戸ゆかりの文豪たち 其ノ弐
横尾忠則現代美術館 横尾忠則 原郷の森
あべのハルカス近鉄本店 近現代 日本画・洋画・陶芸 秀作展 
大阪髙島屋 高島屋史料館×高島屋美術部 アートのチカラ 2023
阪神梅田本店 村カルキ巡回展「我」OSAKA

 

 

田尻歴史館と並び、大阪府南部で建物を見たい展示施設として常に頭の中を占めていた貝塚市歴史展示館にようやく行くことができた。田尻歴史館は実業家の邸宅だった一方、こちらは大日本紡績の工場事務所であり、豪華では無いが壁面のタイルや丸窓が特徴的だった。建物内部で時代を感じられるのは、昭和天皇の巡幸に際して整備されたままになっている奥のニチボー貝塚の展示室ぐらいだったが(結局天皇は来なかったらしい)。入ってすぐの所では東京2020オリンピックの展示で、聖火リレーに関する写真などが陳列されていた。聖火トーチを近くでじっくり見ることができたのは嬉しい。常設展と思しき部分では7割ぐらいが女子バレーボール部のニチボー貝塚に関する展示だった。興味が薄いので感動も何も無かったのは残念だったが、12人制バレーの試合風景などバレーボール史の一面を見るような写真は興味深かった。

一通り展示を見終わって入口に戻ったところで、ボランティアの方に声をかけられ、建物や敷地などについての詳しい説明を聞いた。本当かはともかく、大松監督もあの辺で仕事をしていたんですよと言われると想像できそうで面白い。この建物が事務所で、あっちの方に工場、あっちに寮があって、向こうの体育館で練習していて、この道で工場に通って……と往時のイメージが浮かび上がるような解説をしてくれた。予備知識が無くてあまり反応できなかったのが申し訳ないが……。色々と聴けた話は興味深かったものの、歴史展示館の運営事情が厳しそうな話はどうしようもなさに辛くなった。ニチボー貝塚が一番の目玉展示なのはわかる一方、貝塚市の歴史に関する展示にもう少し割いてもいいような気がする。

関西への巡回は1年後のようだが、9月から福岡市美術館で開催される「日本の巨大ロボット群像」という展示がかなり気になっている。日本のアニメにおける巨大ロボットのデザインや映像表現に関する展示らしい。アニメ関連の展示では谷口吉郎・吉生記念金沢建築館で開催中の「アニメ背景美術に描かれた都市」も面白そう。

 

 

7月に読んだ本まとめ

 

四季大雅『わたしはあなたの涙になりたい』
遠野遥『浮遊』
アントワーヌ・ローラン『青いパステル画の男』

植原亮『自然主義入門 知識・道徳・人間本性をめぐる現代哲学ツアー』
岡田温司反戦と西洋美術』
小川幸司編、成田龍一編『世界史の考え方 シリーズ歴史総合を学ぶ①』
貴堂嘉之『移民国家アメリカの歴史』
和歌山大学観光学部監修『大学的和歌山ガイド こだわりの歩き方』

エドワード・ゴーリー『薄紫のレオタード』

 

このラノでの順位を見て以来、ずっと気になっていた『わたしはあなたの涙になりたい』をやっと読んだ。身体が塩に変わって朽ちながら死に至る塩化病を軸に、東日本大震災の被害と戦火で廃墟と化すも復興したワルシャワ絡めながら、喪失とそれからを描いた物語は、読みやすさの一方であまりラノベらしさを感じない話で綺麗で面白かった。ある事件や災害の被害を受けた人を「物語化」することに対する意見が描かれ、そういう物語の是非が問われているのも興味深かった。

6月のまとめ

6月に行った展覧会まとめ

 

くすりの道修町資料館
大阪府公文書館 所蔵資料にみる大阪の近代教育
大阪税関PRルーム    
阪神梅田本店 藤ちょこイラスト展 - 藤色巡り -OSAKA
あべのハルカス美術館 恐ろしいほど美しい 幕末土佐の天才絵師 絵金
関西大学博物館 浪速の町絵師 菅楯彦が愛した大阪
心斎橋PARCO ART SHINSAIBASHI
大丸心斎橋店 現代アートセレクション
大阪歴史博物館 異界彷徨 ―怪異・祈り・生と死―

 

 

今月も行ったことの無い場所が多めで、その中で告知段階からずっと行きたいと注目していた絵金展に行けたのが良かった。コロナの影響で長らく休館中だったくすりの道修町資料館にようやく行くことができ、江戸期の薬流通システムに当時の医療事情の影響を感じたり、往時の文書が今もなお残ることに感動したりしていた。税関150周年記念で何らかの冊子がもらえたりしないかという下心で行ってみた大阪税関のPRルームでは、Twitterでおなじみのカスタム君を生で見ることができたり、偽ブランド品や密輸に使われた物品の展示でテンションを上げたりしていた。税関150周年記念冊子はオンラインで公開されていることを後で知る。

来月の展示では、大阪市立自然史博物館の恐竜博2023と大阪南港ATCギャラリーの化石ハンター展、兵庫県立歴史博物館の海洋堂と博物館展などが興味がある。京セラ美術館のルーヴル展は行きたい気はあるものの、明らかに混雑するはずなので行かずに終わりそう。

 

 

6月に読んだ本まとめ

 

鎌池和馬とある科学の超電磁砲
佐藤厚志『荒地の家族』
デビット・ゾペティ『奇跡のタッチ』
ドン・デリーロ『ポイント・オメガ』

河出書房新社編『最前線に立つ研究者15人の白熱!講義 生きものは不思議』
ジェニー・クリーマン『セックスロボットと人造肉 テクノロジーは性、食、生、死を“征服”できるか』
東北大学日本史研究室編『東北史講義【古代・中世篇】』
歴史学研究会編『「人文知の危機」と歴史学 歴史学研究会創立90周年記念』

 

 

今月読んだ中では『セックスロボットと人造肉』が面白かった。セックスドール、培養肉、人工子宮、自殺マシンの4つのテーマについて、テクノロジーを産み出す企業や技術者、倫理の研究者、利用者など関係者へ取材をして一冊にまとめた本。性格などをインプットして自分の思うがままのパートナーを実現するセックスロボット。動物を殺さずに作り出される培養肉。妊娠を介在せずに子どもを産める人工子宮。自ら死ぬ権利を実現するかもしれない自殺マシン。発展していく技術の一方で、それによって起こる問題や議論が濃く述べられているのが印象的だった。技術で実現したいことは技術で解決しなければならないことなのか。ただ、本書の中で描かれる技術が、もっと心理的にも生理的にもハードルが下がる程に一般化していった時、議論以上に感情として飛びついてしまう可能性は自分でも否定できない気がする。

5月のまとめ

5月に行った展覧会まとめ

 

兵庫県立美術館 恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造
兵庫県立美術館 虚実のあわい
大阪くらしの今昔館 五井金水とゆかりの画家たち-船場で愛された絵師の画房から-
大阪コリアタウン歴史資料館
泉北髙島屋 藤城清治版画展~生きるよろこび~
大阪大学中之島芸術センター アートトリップ・ナカノシマ——モダン中之島コレクション・アネックス

 

 

今月はあまり行ったことの無かった場所にいくつか行ってみた。先月末にオープンした大阪コリアタウン歴史資料館に行くついでに鶴橋のコリアタウンを歩いた。鶴橋駅で降りたのは初めてだが、駅から繋がった商店街にお店がかなりあり、その長さに驚く。閑散としている駅前商店街を見ることが日常で多かっただけに、帰る時に駅に辿り着くのに苦労する程に商店街が盛り上がっていることが新鮮だった。駅からやや距離のある資料館まで歩き、小ぢんまりとした資料館で知識を積んだ後にそのままコリアタウンへ。駅前や大通りを歩いていても韓国関連のお店が目に付いたが、コリアタウンの通りはそこだけ空気が違っていた。キンパなど売られている物も、角にトルハルバンなどが立つ風景も、歩いてる人の賑わいも。一本の通りだが特別な空気をまとったその感じは、昔少しだけ歩いたことのある竹下通りを思い出した。独りで楽しむには韓国グルメへの興味があまり無く、天気も不安定だったので空気を味わうだけで通りを抜け、大通りに接続する末の辺りにあった御幸森天神宮に入った。時代と共に歩んだ人の熱を感じる展示を資料館で見たものの、一番興味を持って見てみたいと思ったのはこの神社にある百済から渡来した王仁の歌碑だった。万葉仮名・古今和歌集の仮名・ハングルの3つで難波津の歌が刻まれた碑。そういえば、竹下通りも近くに神社があったなと思い出した。

展覧会では告知段階からずっと行きたいと思っていた恐竜図鑑展に行けたことが何より嬉しかった。恐竜という主題とは別にイメージ像の変遷というテーマ自体に興味があり、展示図録までつい買ってしまった。泉ケ丘駅近くの大蓮公園で原寸大複製された須恵器の生産遺跡を見たり、大阪大学中之島芸術センターでは適塾版『テュルプ博士の解剖学講義』を見たりと、新規開拓した場所は他にも興味深かった。

今行きたい施設は、コロナでずっと休館状態だったが最近再開した少彦名神社のくすりの道修町資料館。平日のみ開館(土曜は要予約)で16時閉館だが、道修町ミュージアムストリートの中で行きそびれている施設で、都合のつく時に行きたいところ。

 

 

5月に読んだ本まとめ

 

マーニー・ジョレンビー『こんばんは、太陽の塔
高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』
高山羽根子『パレードのシステム』
竹町『スパイ教室短編集』4巻
玉岡かおる『われ去りしとも 美は朽ちず』

久保勇貴『ワンルームから宇宙をのぞく』
斎藤兆史『英語達人列伝II』
カロリーヌ・フレスト『「傷つきました」戦争 超過敏世代のデスロード』 
南塚信吾、小谷汪之、木畑洋一編『歴史はなぜ必要なのか 「脱歴史時代」へのメッセージ』

 

 

文化盗用を掲げ、あらゆる文化が検閲されていく欧米社会に関して綴ったエッセイの『「傷つきました」戦争』が衝撃的だった。行き過ぎたポリコレについて複数の事例から論じている一冊。日本趣味の娘の誕生会が炎上した事例。オタワ大学でヨガのレッスンが文化盗用として批判された事例。反レイシズム作品が反レイシズムの下で非難された事例。アイデンティティ批判の目的で、別の視点でのレイシズム発言が行われていく。実際は極端な事例ばかりではなく、批判者側にもそれぞれの話があり、この一冊だけで状況をわかった気にはなれないが、純粋さを突き詰めた先にそれが攻撃となって検閲となって抑圧していくことには抵抗感がある。

4月のまとめ

4月に行った展覧会まとめ

 

狭山池博物館 土木遺産展-水をはこぶー
阪急うめだ本店 六花亭と農民画家 坂本直行
大阪大谷大学博物館 椿井文書をめぐる人々 ―拡散する偽文書―
国立文楽劇場資料展示室 国立劇場所蔵 上方浮世絵展
阪急うめだ本店    POP&STREET AN ANNUAL 2023

 

 

今月は出不精気味だった。大阪大谷大学博物館の椿井文書の展示と国立文楽劇場での上方浮世絵展が面白かった。前者は偽文書として有名な文書に関する展示。江戸時代創作の文書ながら中世に作成されたという体を取っており、家系図などにとどまらず縁のある寺院の絵図まで作っていたのが印象的だった。作成した家系図により、同じ椿井一族の中でも別の家の当主が家に伝わる情報との相違に困惑していたのが面白い。国立文楽劇場での上方浮世絵展は、国立劇場が所蔵する浮世絵の展示で、よくある歌舞伎の浮世絵の中に人形浄瑠璃の絵があったのが特に興味深かった。人形浄瑠璃の浮世絵を目にしたのは初めてだ。役者絵の隆盛に見える現代的な「推し」という視点は、早稲田大学の演劇博物館で現在やっている推し活!展の背景となっているはずで、行けるならそちらの展示も見てみたい。

 

 

4月に読んだ本まとめ

 

井戸川射子『この世の喜びよ』
ジュゼッペ・トルナトーレ鑑定士と顔のない依頼人
日比野コレコ『ビューティフルからビューティフルへ』
八木詠美『休館日の彼女たち』
八木詠美『空芯手帳』

猪谷千香『ギャラリーストーカー 美術業界を蝕む女性差別と性被害』
小泉悠『ロシア点描 まちかどから見るプーチン帝国の素顔』
原田マハ『CONTACT ART 原田マハの名画鑑賞術』
牟田都子『文にあたる』

 

 

気になっていた小説を何冊か読んだが、図書館で借りた本も読みたい本リストもオススメされた本もまだまだ残っているし、おそらく全部読み切る日は来ない。パワーワードが飛び交う『ビューティフルからビューティフルへ』が登場人物の救われなさの一方で言葉のエネルギーというか生命力が読んでいて印象的だった。博物館のヴィーナス像とラテン語で話すアルバイトという設定に惹かれて読み始めた『休館日の彼女たち』は色々想像が広がりそうな話だった。日常言語じゃないからこそできる会話や、社会で生きる中で纏うレインコートの話も興味深かったが、美術品が晒される視線を考えさせられる話でもあり、美術館や博物館に日常的に行く身として面白かった。展示される美術品が意識を持っているとしたら何を考えるのだろう。作中で少しだけ出てくる、時代を重ねた美術品たちが語る番組は聴いてみたい。

3月のまとめ

3月に行った展覧会まとめ

 

ジーストア大阪 イース35周年展
髙島屋史料館 FROM OSAKA~百貨店美術部モノガタリ
大阪髙島屋 SPIRAL Creators File アレトコレ ココ+タナカマコト展
大阪髙島屋 かのうたかお展 -天アリ-
田尻歴史館    
自然遊学館    
阪神梅田本店 鈴木那奈 個展 -Birdsong-
阪神梅田本店 多田幸史 色絵磁器展 ―anima・onozuto―
阪神梅田本店 森倉円イラスト展「桜降る季節」
大阪中之島美術館 Z世代のクラフトマンシップ展~ファッション×サステナビリティのお勉強
大阪髙島屋 京都 細見美術館の名品ー琳派若冲、ときめきの日本美術ー
大阪中之島美術館 大阪の日本画
阪急うめだ本店 ヤノベケンジ SHIP'S CAT展
大覚寺霊宝館 「心経写経と大覚寺」~平安から、つながる想い~
京都嵐山オルゴール博物館 優雅な暮らし-日用品のオルゴール
ハリス理化学館同志社ギャラリー 文化財のもつチカラ-熊本洋学校教師館(ジェーンズ邸)復興までのあゆみ-
ハリス理化学館同志社ギャラリー 「社史」と呼ばれて60年 Keep! -社史は宝箱-

 

 

月末に嵐山に行ってきた。コロナ流行後に、都市中心部ではない観光名所に訪れたのは初めてかもしれない。朝から大覚寺の名宝展を鑑賞し、嵐山駅まで歩く道中でオルゴール博物館に立ち寄り、駅前のキモノフォレストを歩いた。昼食を食べにどこかに入るのも混雑から億劫で、渡月橋を渡って河原で少し休んだ後、天龍寺で法堂の天井画を見た。前に進むのも苦労する程の人混みは久々だ。大覚寺天龍寺も、寺院の大きさと所々で目にした寺宝の豪華さに、栄えていた時代と積み重ねた歴史の長さを感じさせられた。天龍寺は疲れて庭園を回り切れなかったぐらいに。大覚寺では寺院の静寂な空気の中、選挙カーの音が遠くに響いていて、古くからの時代の雰囲気と今の現実の生々しさとのギャップが少しおかしかった。

 

 

3月に読んだ本まとめ

 

アサウラリコリス・リコイル Ordinary days』
グレゴリー・ケズナジャット『開墾地』
竹町『スパイ教室』9巻

堅田香緒里『生きるためのフェミニズム パンとバラと反資本主義』
高島鈴『布団の中から蜂起せよ アナーカ・フェミニズムのための断章』
馬場友希、福田宏編『新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法』

ショーン・タン『いぬ』

 

 

図書館から本を借りては積み、積みを崩せないままに返却期限が来て返す悪循環が続いている。単純に読書時間をあまり取れていないのと、集中して本を読むことがあまりできていない。今年の紀伊國屋じんぶん大賞を受賞したという触れ込みで知っていた、『布団の中から蜂起せよ』がなかなか衝撃的な一冊だった。あらゆる差別とあらゆる権力を否定するアナーカ・フェミニズムの思想を、自己の体験を綴ったエッセイから煽動的に伝えていく。抵抗の意志の下で生きていることだけで尊重されるべきという思想は、無為に対する強迫観念に追われる身としては賛同しきれる訳では無いが、生きること自体の否定に傾きそうな心に少しだけ支えになったような気がする。