11月のまとめ

11月に行った展覧会のまとめ

 

和歌山大学紀州経済史文化史研究所 移民と和歌山2023:記憶と遺物の継承~過去から現在、そして未来へ~
和歌山県立近代美術館 トランスボーダー 和歌山とアメリカをめぐる移民と美術
和歌山県立近代美術館 原勝四郎展  南海の光を描く
和歌山県立近代美術館 原勝四郎と同時代の画家たち
大阪市公文書館    博覧会と大阪-公文書から見る大阪の近代化-
大阪市公文書館    建築物の図面から見る大正・昭和の大阪
阪神梅田本店 日月沙絵イラストレーション個展 『しろいいきもの』
阪神梅田本店 がわこ画集「emergence」出版記念イラスト展
大阪府立中央図書館 子どもの本のはじまり-三宅興子 英語圏児童文学コレクションから-
ミズノスポートロジーギャラリー    
さんふらわあミュージアム    
狭山池博物館 令和5年度選奨土木遺産パネル展
狭山池博物館 新大和川と石川の治水絵図-若狭野浅野家の流域図を見る-
堺市博物館 コロナ禍を乗り越えたアジア太平洋地域の無形文化遺産
堺市博物館 都市の祈り 住吉祭と堺
河内長野市立ふるさと歴史学習館    天野山金剛寺の中世世界展

 

 

月の頭に和歌山県に行った。目的はアメリカへの移民をテーマにした2つの展覧会。今月は近代美術館の無料開館日が多く、その日を狙って美術館の展覧会に行くつもりだったが、和歌山大学の展示は平日しか開いておらず、ちょうど平日に動けるタイミングが来たので両方セットで見に行くことにした。南海電鉄の1日乗り放題きっぷが11月末まで販売中なのも都合がよい。新今宮で2000円の乗り放題きっぷを購入し、特急サザンに乗って朝から大阪府を一気に南下して和歌山へ。予想以上の速度でスイスイ進むのは良かったが、時間と停車駅の都合から気になっていた岬の歴史館をスルーせざるを得なかった。大阪最南端の自治体である岬町の歴史博物館で、最寄り駅が南海電鉄のため、乗り放題機会に立ち寄りたかったが仕方ない。存在を把握しているミュージアムはとりあえず一度は行ってみたいと思っている。

1時間ほどして和歌山大学前駅に到着。駅を出ると、道路を挟んで大きなイオンモールが階段の向こうにあった。イオンモールで昼食を食べて大学の方へ歩き出す。駅前で目にした施設はイオンモールとサーカスと交番のみ。住宅街の間を20分ほど歩いて和歌山大学に着いたが、道中で記憶しているのはコンビニと結婚式場ぐらいだった。大学生はイオンモールで鉢合わせるのが当たり前なのだろうか。登り坂の先にある階段を上がってようやくキャンパス内に入る。大きく経済学部と書かれた垂れ幕のある建物と、ベンチにマスコットキャラと思しきオブジェが居るのが印象的だった。目的地の建物の1階にある図書館の受付で入館手続きをし、エレベーターで5階に上がって展示室へ。入口に過去の展示図録が1部限定で持ち帰ってよいと並べられていたので一通り貰い、展示を観始める。本題の展示は和歌山県からアメリカへと移民した人々の資料の展示。移民した家の子孫が保存していた資料が展示されていて、それぞれの家の概要を説明するパネルがある以外は、個々の資料の詳細な説明はほとんど無い。最初に展示されたトランクにかつての長い旅を思いながら、写真や絵葉書、旅券、契約書、証明書といった資料からアメリカへ渡った人たちが確かにいた歴史を実感した。エピソードとしてだけ知っていた写真花嫁の手紙が展示されていて、実際に資料として目の前にあるのは衝撃的だった。各家庭でこのような資料が残され、今に伝わっていることそれ自体に大きな意味があるのだろう。

徒歩で駅まで戻り、今度はすぐに和歌山市駅へ到着。歩いて和歌山県立近代美術館へ。もう一つの目的だった中銀カプセルタワービルのカプセルを鑑賞。東京ではついぞ見に行くことは無く、解体されたカプセルの1つだけをここで見ているのも順番がおかしい気はするが、あのカプセルの中身を窓から覗きこむことである程度知ることができたのは良かった。思っていたよりも必要な物は揃っているように見える。内部公開される日が来たらまた見に来たい。

受付でチケットを購入して今回の主目的であるトランスボーダー展へ。アメリカ西海岸で活動した日本人が残した美術作品をメインとした展示。序盤は和歌山の移民県としての側面を反映した展示で、和歌山大学で見た展示と被っている所もあり、2つの展示を併せて見ることで理解が深まって良かった。中盤からは個々の作家の展示になったが、イメージよりも「日本」を感じさせる作品の少なさに驚くとともに、そういう物が多いだろうという先入観自体に自分のバイアスを感じさせられた。日本人への差別が強まっていく戦前期でも、差別の中に生きていることを窺わせる作品は多くなかった。アメリカという異郷での活動と生き方を想いつつ歩みを進めていたが、最後の部屋で目にしたのは日系人収容所での作品という「日本」を強く感じざるを得ない展示だった。アメリカに味方をするかと問いかけられた当時の雑誌の記事。収容所生活を描いた絵画。僅かな素材から作られた置物やブローチ。このセクションだけで展覧会全体を判断するのもどうかと思いつつ、ここで受けた衝撃はそれまでの作品よりも大きかった。個々の作家の掘り下げやアメリカでの人の交流についての研究がもっと進んでいくと、これまでの章の印象も変わってくるかもしれない。今の段階では、アメリカで活動した作家が居たという記録としての側面が強いと思う。折角来たので同時にやっていた原勝四郎展と、 原勝四郎と同時代の画家展も鑑賞。3つの展覧会を全部見ても1000円なのはお得だと思う(ぐるっとパスで200円引きの800円だった)。

和歌山県立近代美術館に来たのは「美術館を展示する」というミュージアム自体についての展示以来の3年ぶりだった。初めて来た当時、コレクション展とこの展覧会を見てこの美術館を応援したいと感じたのを思い出した。再訪までこれだけ時間が空いてしまったのは残念だったが、これからもまた時機を見て訪れたい。

 

 

11月に読んだ本まとめ

 

朝依しると『VTuberのエンディング、買い取ります。』2巻 
小川洋子『からだの美』
アベル・カンタン『エタンプの預言者
四季大雅『バスタブで暮らす』
高瀬隼子『いい子のあくび』
津村記久子『うどん陣営の受難』

池上俊一『少女は、なぜフランスを救えたのか ジャンヌ・ダルクのオルレアン解放』
稲岡大志、長門裕介、 森功次、朱喜哲編著『世界最先端の研究が教える すごい哲学』
神戸大学人文学研究科編『人文学を解き放つ』
清水浩史『海のプール 海辺にある「天然プール」を巡る旅』
東京大学広報室編『素朴な疑問VS東大 「なぜ?」から始まる学術入門』
仲谷正史、山田真司、近藤洋史『脳がゾクゾクする不思議 ASMRを科学する』
山本冴里編『複数の言語で生きて死ぬ』

 

 

途中まで読んで放置していた『エタンプの預言者』をようやく読み終えた。65歳の元大学教師ロスコフが、ダメダメだった人生の逆転としてウィローという詩人の書籍を刊行するも、彼の黒人という要素を前面に出さなかったために文化盗用として大炎上してしまうというあらすじ。反人種差別運動に参加した過去を持つリベラルな白人インテリという自認の一方で、時代に取り残され、現代的な人種意識に適合していなかったことが悲惨な状況を招く。住所を晒され、アパルトマンは落書きされて錠は壊され、有料サイトに勝手に登録されては口座のリボ払いが始まり、挙句の果てに娘が襲撃される。アルコール中毒で怠惰で、要所要所で悪手を打ち、過去に大きな失敗をしたのに今回も大失敗をしてしまう。老いてしまった先の姿として、充分にあり得る最悪の未来として我が身のことと考えてしまうと恐ろしくなった。