測量×地図 測り・描き・守り・伝える

 昨日、新宿歴史博物館の企画展と平和祈念展示資料館を巡ったので、その感想を記す。まずは新宿歴史博物館の特別展「測量×地図 測り・描き・守り・伝える」から。

 

 

 12月半ばから3月にかけて休館という情報を知り、ぐるっとパスもあるし特別展も何やら面白そうなので、昼過ぎに新宿歴史博物館へ行った。四ツ谷駅から徒歩10分。存在は知っていたものの、惹かれる特別展が無かったのか今回が初来訪。存在を知った頃は新宿駅ではなく四ツ谷駅が最寄りなことにまぎらわしさすら感じていたが、東京慣れしていなかったのだろう。道中で、近傍に帝国データバンク史料館という面白そうな施設があることを知ったが、火曜~金曜しか開いていないため今日は断念。

 

 入り口から受付までの測量にまつわる写真を見て、ぐるっとパスで無料入館。地下への階段を下りながら、壁に貼られた今回の展示に目を留める。なるほど、近代測量150年なのか。全然知らなかった。地下は特別展エリアと常設展エリアに分かれており、まずは今回の目的である特別展エリアに入る。置かれていたリーフレットで地図と測量の科学館の存在を初めて知って興味を持ったが、つくば市か……。ちょっと思い立って行くには遠い。まあ、いつの日か行けたらいいな。

 

 ということで特別展。近代測量前史として、最初に江戸切絵図と伊能中図が展示されていた。相応の技術での測量という点で、伊能図から始まるのは納得感がある。江戸切絵図は武家屋敷や寺社地で色分けされているが、この時代の寺社地は流石に多いな。別々の小さな寺社が固まって存在していたのが印象的。

 伊能図に関しては、伊能忠敬の測量方法と用いた道具が展示されていた。伊能図の日本の正確性には、見る度に驚愕させられる。伊能忠敬の測量は導線法・交会法・天文測量を組み合わせた物で、繰り返し測量することで精密性を高めたらしい。海岸線や街道に目印を立て、距離と角度を測るのが測度法。山などの共通の目標物から角度を測って誤差を補正するのが交会法。で、その上で天文測量を組み合わせたと。書いてみると仕組みはシンプルに思えてくるが、高い精度で以て日本全土の広さで行い続けていくには困難なことであろう。尋常ではない精神で成し遂げ切ったのはすごい話だ。

 そして、近代測量の歴史が始まる。当初は各省で行っていた地図作成は、最終的に陸軍へと一本化される。今回の特別展の売りと思われる、陸軍の迅速測図原図の展示がされていた。明治13年から19年にかけ、関東平野のほぼ全域と、房総半島および神奈川県北部を測量した2万分の1の地図。近代的測量法によって広範囲を測量した日本初の地形図となる。街道や街並みの目標物のスケッチである視図が地図外にあるのが印象的で、こういう建物が当時街のランドマークだったのだなあと。同じ展示エリアで地租改正の地券が展示されており、なるほど土地所有の確定のために地図の存在は重要だなと再認識した。というか、地券のデザインはキヨッソーネなのか。陸軍での地図の作成には多くの画家が関わっていたというのも面白い。川上冬崖が陸軍省で測図用の図画教育に携わっていた事実とか。

 陸軍将校のドイツ留学があったとはいえ、地図表現方式がフランス式からドイツ方式へと変わった背景に普仏戦争の結果があったのは、陸軍という組織下で行われていたのも理由なのだろうか。銅版画による地図製図についての説明があった後、昭和期に発行された様々な地図のリストが展示されていた。山嶽図はまだしも、スキー用図は陸軍とそこまで関係ない気がする。色々やっていたんだな。

 三角測量の展示を見て、現代の測量技術の展示エリアへ。三角測量、地理で漠然と勉強しただけだが、改めて学び直すことになった。それにしても、明治期の水準点なんかまだ残っているんだ。現代の電子基準点を用いた測量や、測量用航空機による空中写真撮影などのパネル展示を見る。まさか、つい最近『地図中心』を読んで知ったばかりの測量用航空機の話を見られるとは。展示内容からしてそりゃそうだけどさ。国土地理院にドローンを運用する組織があるのは初耳だった。時代の流れからして当然に思えるけれど、全然知らなかったな。

 現在の試みとして、2024年までにGPSで誰でもスマホですぐに標高がわかるように構築を進めているらしい。GPSの高さとか標高とか、具体的に考えたことも無かったけれど、GPSや衛星システムで分かるのは地球を楕円体近似した表面からの高さであり、日常で用いる標高はこれからジオイド高を引いた物になるとのこと。高精度のジオイド高を構築するために、日本全国の均一で高品質な重力データが必要で、そのために工区重力測量を全国で実施していると。説明パネルからかいつまんで書いてみたが、あまりピンと来ないな、いつか勉強するか。

 

 今回の展示で、地図や測量関係者の間で有名という寺田寅彦のエッセイ『地図をながめて』を知り、展示エリアにコピーが置いてあったので読んだ。今回の展示を通して感じた、測量をして地図を作っていくという営みの素晴らしさと困難さについて、このエッセイがうまくまとめている。コーヒー一杯で買えた地図でどれだけの世界が広がっていることか。青空文庫で公開されているので、是非読んでほしい(https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/card2508.html)。

 

 

 特別展を満喫した結果、常設展をきちんと回れなかったのが心残りか。近世までの展示のコンパクトさに、新宿だしなあと納得して終わっただけなので、もっとじっくり堪能したい。平和祈念展示資料館の感想はまた今度。